米男子プロツアーの第13戦「フェニックス・オープン」は松山英樹の3連覇の偉業がかかったが、第2ラウンドのスタート前、松山は左手首の故障のため棄権、ファンには信じられない結末となった。第1ラウンドを2アンダー69の29位につけた松山は、翌日の第2ラウンドスタート前の練習場で数球打ったところで、「左手首に痛みがある、プレーすることができない」と棄権した。

 

 左手は前日、インスタートの13番のプレー中、痛みを発生。「我慢してプレーできない状態ではないが、スイングがおかしくなるなど影響が出ると思うのでやめた」と大事をとった。しかし、その後、左親指の付け根が故障個所であることが判明。最低、3週間くらいはツアーを離れるなど予断を許さない状況。痛みは過去にもあったそうだが、松山は「スイング時にクラブを上げるのにも、初めて経験する痛み」と明かした。

 

 心配だ。左手はスイングアーク(弧)をつかさどる最も大事な機能。なかでも左親指はクラブをホールド(支え)し、トップでの切りかえしでは全パワーが集中するスイングの生命線だ。ここに痛みがあるとトップにしっかり上がらず、フィニッシュで支えることもできない。当然、インパクトの衝撃を受け止めるのもむずかしい。けがの具合によっては選手生命にかかわる、厳しい状況も懸念される。

 

 ゴルファーの故障は全身に及ぶ。タイガー・ウッズの腰,ひざ、それに肩、腕、頚椎と上げるときりがない。なかでも左手首の腱鞘炎(けんしょうえん)は野球、ゴルフ病といわれ、プロ野球、ゴルフに広く及んで悩みの種だ。これが原因で引退に追い込まれた選手も多数いる。松山は日本に帰国して検査することも考えているようだが、いずれにしろ長期の治療は避けられないだろう。米ツアーでは1986年、転戦中の青木功が右手腱鞘炎を悪化させ、米大リーグ、トミージョン手術で知られる整形外科医、フランク・ジョーブ博士(故人)の手術を受け、2か月間、クラブを握れなかったことがある。

 

 松山は大丈夫だろうか。同じ左手親指付け根の故障から復帰した最近の例ではシニアツアーのベルンハルト・ランガー(独)がいる。
 シニア・チャンピオンツアーの賞金王として3年間君臨したランガーは53歳の2011年シーズン、開幕4戦で親指付け根を故障、3月にニューヨークでレーザーによる手術を受け7月に復帰。その間、10戦を欠場し11年シーズンは賞金ランキング25位と落ちたが、その翌年から再び賞金王に返り咲き10年で9回の賞金王となった、驚異の名手である。だが、プロの世界で怖いのはそうした美談、あるいは”グッドストーリー“より、故障に泣くプレーヤーの悲劇の方が多い現実だ。

 

 世界ランク5位。今大会では米ツアー、5人目となる3連覇を期待された松山だったが、大会2日目にして夢はかなわず。そればかりかメジャー第1戦のマスターズの出場にも危険信号がともった。世界ランクも欠場する大会が増えるごとに下がっていくことになる。
 松山の回復を心から祈るしかない。先を急がずじっくりとなおしてほしい。時を同じくして、右手首の故障で昨年から長期離脱のテニスの錦織圭が復帰した。世界ランキングは27位まで下げ、むずかしい要素が絡み合って一様でないが、28歳の錦織の復活への道を25歳は重く受け止め見習ってほしい。

 

武藤 一彦(むとう・かずひこ)
ゴルフジャーナリスト。コラムニスト、テレビ解説者。報知新聞には1964年入社、運動部に所属、東京オリンピックはじめボクシング、ゴルフ、陸上担当。編集委員、専属評論家も務めた、入社以来50年、原稿掲載の”記録”を現在、更新中。
日本ゴルフ協会広報参与、日本プロゴルフ協会理事を経て日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、日本ゴルフ振興協会広報メディア委員、夏泊ゴルフリンクス理事を務める。

ゴルフは4メジャーのほか、ワールドカップなど取材、全英オープンは1975年から取材し日本人記者のパイオニア的存在。青木功のハワイアンオープン優勝にも立ち会った。1939年生まれ。東京都出身、立大出。

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