田中さんのエージシュートは2018年3月末現在、282回になった。年が明けて1月は4回、2月は2回とペースが落ちた。気温が上がった3月には7回と調子を戻したが、1、2月は寒さと雪も多くプレー不能のコースが多かったことも影響したのだろう。去年と比べると回数は減っていた。

 

 人間とはおかしなもので、ペースが落ちると周辺の空気が重くなる。ゴルフ仲間たちだ。心配性の人は「もう無理だよ。いくら元気だといったって83歳だしさ」などと遠慮のない声が聞こえてくる。かと思うと「トシ取ったのだから、1打、楽になったわけだし、これからどんどん増えるよ、心配しなさんな」と楽観的な見方もある。いずれにせよ、誰もが期待し朗報を毎日待っている。心配屋も楽観屋も同じ応援団にかわりない。そして、そんな見方のやり取りに加わってああでもない、こうでもないといつの間にか参加している自分に気が付いて苦笑したものである。ある日、田中さんとこんな会話を交わした。

 

 「エージシュートという一生に一度やるだけでもすごい事を、あなたはいま300回もやろうというところまで持ってきています。ところがそのペースが落ちると回りは、1月は4回しか出ず、2月はたったの2回しか出なかった、と言う。これをどう受けとめますか?」4回“シカ”、“タッタノ”2回“シカ“―。なんともぜいたくな悩みのぶつけ合い、名人に対する無礼であり、失礼なのではないか。と思うがむろん悪意はなく、その食い違いがおかしい。あえて名人に聞くと笑顔で答えた。
 「いや、私は、運のいい男なのです。皆さんに助けられ励まされてここまできた。仕事も人に恵まれやってくることができた。35歳で始めたゴルフも、70過ぎで出会ったエージシュートも皆さんのおかげでこうして頑張って居られる。人と運に恵まれた私ほど運のいい男はいないのです。皆さんが喜んでくれることがエネルギーになっている。本当にありがたいことです」満面の笑顔と感謝の言葉、周囲の人々に感謝するとき色艶のいい顔がツヤツヤに輝く。

 

 4月1日、クラブ対抗の代表12人による東京よみうりCCの結団式は同日午後に同コースで行われた。だが、12人にとってこの日は、本選までの約1か月半に及ぶ予選会の始まりでもあった。12人の内、大会に出場できるのは8人だけ。オリンピックの代表選考会、いわばその正選手を選ぶ、練習ラウンドが、この日始まったのだ。選手たちは結団式に先立つ、午前8時すぎ、4組に分かれ次々と1番ティーをスタートした。練習ラウンドは5月13日までの毎日曜、祭日を含めた計10ラウンドで争われる。その10ラウンドの総合成績の上位8位までが晴れてコースで戦う代表メンバーとなる。

 

 団体戦で争うクラブ対抗戦は日本のアマゴルフ界を支える伝統の一戦。2018年度の関東倶楽部対抗東京地区予選は5月21日、桜ケ丘CC(東京多摩市)で行われ、上位2チームが本選に出場する。選手たちはこの1年の研修会で代表の座をつかみ、さらに8人の枠を目指すのだ。

 

 71歳で東京よみうりCCのクラブ対抗戦の最年長代表となった田中さん、ブレザーは着たが、代表メンバーとして対抗戦の出場はならなかった。83歳。自己の持つ最年長記録を大幅に更新した今回、2度目の代表入りを果たした。今回、最終メンバーになれば、全国的なクラブ対抗史でも初の最年長プレーヤー、大快挙である。運のいい男の勝負がいよいよ始まった。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。83歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。

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