驚異のエージシューター田中菊雄の世界14 武藤一彦のコラム─長いのがよく入る 短いのはまず外さない 勝負どころは決める田中さんのパット


広いスタンスでパットする練習グリーンの田中さん

広いスタンスでパットする練習グリーンの田中さん

 ざっと田中さんのクラブを紹介したが、最後はパットだ。

 

 百聞は一見にしかず─。写真を見ていただきたい。スタンスは広い、すごいフックスタンスだ。独創性がある。見る人の感想は様々、「変な格好だ」「驚きの新打法?」「これで入るの?」といった声が聞こえてくる。

 

 パターは太グリップ。シャフトぎりぎりに短くグリップし右手は完全にシャフトにかかっている。普通、このタイプのパターなら、スクエアスタンスのアップライトな構え、転がすラインにスクエアにヘッドを動かすところだが、田中さん、短く握り、しかもフックグリップ。アドレスでインパクトの形を作り、そこをアドレスと決めたら、両手を伸ばしたままに球を打っていく。クラブフェースは打つ方へ向くからかぶり気味だ。

 

 そうです、ドライバーショットをそのまま持ち込んだ田中式パッティング。独特のオリジナリティがプンプンとにおう。そこにはドライバーショットをグリーン上に持ちこんだスイングの一貫性が見え隠れする。いや、アイアンにもアプローチにも通じるインパクトというものへの追求があるように見える。

 

 田中さん「野球はインチだが、ゴルフはミリの世界だ」といったことがある。動く球を打つ野球は1インチ、約2・5センチのインパクト。だが、止まった球を打つゴルフのインパクトは1ミリ。ボールとパターフェースの微妙なタッチをもって、良しとするショートパットを究極とするゴルフの世界である、「ゴルフは繊細なんです」というのだ。

 

 この構えから長いパットを驚くほどよく入れる。最近の複雑なグリーンで7、8メートル、10数メートルを1ラウンドの間に2、3回は放り込んでくる。「パットは車の運転と同じ。狭い道ですれ違う時、右を合わせておいて、そーっと通るでしょ? あれを左だ、右だと心配するから迷いが出る。しっかりスタンスをとり、手を伸ばし1、2、3で打つ。心配して届かないことがパットミスの9割を占めるからカップを通り過ぎるようしっかり打つんです。僕はそうやっている。だいたいうまくいっている。経験です」

 

 アプローチもショットも同じ。いやドライバーショットもアイアンも同じ。「球に当てようとすると誰でも球が近くなる。すると手が縮こまり、なでるようなインパクトになる。人は敏感、当てようと思うと近づくが近くなると思うと手が縮む。安定したショットをするには球との関係をいつも同じに保ちたい。球は手を伸ばして打てというのはそのことです。ドライバーはもちろん、アプローチもパットも手を伸ばして打つ。それがナイスショットの必須条件です」

 

 パットに形無し、というのはフォームとパターの話。それとインパクトとは別の次元のことだ。インパクトは常に同じでなければならない。手を伸ばしたインパクトを目指せばドライバーからパットまで同じフォームになった田中さんの実践を理解できるはずだ。

 

 田中さんのエージシュートは12月8日現在、ついに通算で175回に達した。今年3月3日に81歳になった田中さんだが、年間達成記録だけで70回に達した。これは80歳の時の年間最多50回を20回も上回る最多記録だ。来年3月の誕生日まで記録はどこまで伸びるのか楽しみだ。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。