驚異のエージシューター田中菊雄の世界23 武藤一彦のコラム─「インパクトで腕を伸ばすと驚くなかれ、顔の左に壁ができた」左サイドのカベはしっかり伸びた両手が作る【技術編】


 「頭を残せ。ヘッドアップするな。左に壁を作れ。プロは口を開けばそう言ったけど、誰もその方法は教えてくれなかった」田中ゴルフはそんな不満の中から生まれた。

 

これでもかと大きく上げる田中さんのバックスイング

これでもかと大きく上げる田中さんのバックスイング

 35歳から始めたゴルフにのめりこみ、がむしゃらにボールをたたき続けたが、熱心にやればやるほど疑問が生まれた。田中さんの「どうしたらヘッドアップをしないかの追求」が始まった。

 

 「手の位置が狂わなければヘッドアップをしないことに気が付いたのは70台の後半にさしかかってからだった」という。「手を伸ばしインパクトすると球は曲がらない。ドライバー、アイアンと何度も打つ中で、またラウンドをくり返す試行錯誤の中で、左手が伸び、右手が伸びて球をとらえたとき気持ちよく振れた。さらに驚いたのは、しっかり伸びた腕がボールをとらえると顔の左サイド、中でも左頬に壁ができた。左の頬と良く伸びた左腕と、これもよく伸びた右腕の体感があった」―左頬が残ったインパクト、すなわち左サイドの壁だった。

 

 インパクトはアドレス の再現。言葉ではいうが、ナイスショットで感じる体感こそゴルファーにとってうれしいことはない。田中さんの開眼だった。

 

 「左頬に壁を感じるとクラブが働く。アドレスでしっかり手を伸ばしインパクトでしっかり手が伸びていれば球は曲がらない。姿勢、スタンス、グリップとインパクトが狂わなければクラブが働くというこことの発見でした」

 

 球を遠くに置く。遠くの球をしっかり伸ばし手でたたく。田中スイングの基本である。ドライバーからアイアンまでのショットだけではない。しっかり伸ばした手はアプローチ、そしてパッティングにも受け継がれる。大きなスイングに限らず小さなパットに到るまでゴルフに求められるのは「しっかりヒット」である。

 

 しっかり上げるバックスイングはすべてのショットの基本。そのための姿勢、スタンス、理論はすべて一緒である。

 

 ではその体感を感じてもらおう。その驚くべき一貫性はパッティングにも見られる。

 

ドライバーショット並みのパットの広いスタンス

ドライバーショット並みのパットの広いスタンス

 クローズドスタンス。広いスタンスはドライバーショットかと思うほど広い。ラインに対しクローズドスタンスだから、パターフェースをかぶせてカップに合わせるのもドライバーショットと一緒。そして、大きなバックスイングからしっかりインパクトすることで球とフェースを正対させるやり方も同じである。このことは何を示そうとしているのか。そう、しっかり上げたらしっかりインパクト。そしてインパクトでスイングはおしまいということだ。そうだ、田中スイングはインパクトにアドレスの再現がある、その時点で手をクラブが追い越せば、球は強く遠くへ飛んでいく、その一点に技術が集約されるのだ。

 

 田中さんの常識を越えた180回のエージシュートはこの小技の中から生まれた。1ラウンドでわずか14回しか手にしないドライバーに対しパターは30回前後、グリーンまで残り30ヤードのアプローチショットは全ショットの50パーセントを占めるといわれるゴルフである。その目指すところを的確に捉えて無駄のない技術が正確さの秘密なのである。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。