◆男子プロゴルフツアーマイナビABC選手権 最終日(28日、兵庫・ABCGC=7217ヤード、パー72)
首位タイからスタートしたプロ11年目の木下裕太(32)=フリー=が、1番であわや30センチの「お先に」パットを外すドタバタ劇を演じながらも5バーディー、2ボギーの69と踏ん張って通算15アンダーまで伸ばした。67をたたき出した川村昌弘(25)=アンテナ=と並び、プレーオフに突入。こわ面な風貌ながら自身を「めちゃくちゃ気が弱い」と評する個性派プロの木下裕は実力者の川村と激戦を演じ、存在感を示した。3打差3位は韓国のH・W・リュー(37)=フリー=。石川遼(27)=カシオ=は通算2オーバーの48位だった。
初めての最終日最終組。木下裕太は緊張の極致にいた。
1番、421ヤードのパー4。第1打は左に大きく引っかけ、バンカーへ。フィニッシュは全く取れないほど乱れた。
しかし、残り約140ヤードの第2打はバンカーからピン右手前4メートルのグリーンエッジへナイスショット。
だが、しかし。パターのバーディートライは30センチショート。「めちゃくちゃ気が弱い」と正直に話す弱点のメンタルが顔をのぞかせた。
ハイライトはここから。30センチのパーパットを「お先に」タップインしようとしたが、まさかのミス。ボールはカップ縁を1周回ってカップ縁に止まった。木下裕の動きも止まった。ギャラリーから大きなため息が漏れた。
だが、だが、しかし。その1秒後。ボールはカップにコトリと落ちた。ゴルフ規則では、ボールが停止しているか確認するため10秒待つことができる。木下裕はぎりぎりでパーセーブ。引きつっていた顔は苦笑いに変わり、ギャラリーからどよめきと歓声が起きた。
2番ではボギーをたたき、2位に後退したが、4番パー5では第2打をグリーン手前に運び、第3打のアプローチをピン手前30センチにピタリ。今度はしっかりとど真ん中から沈めた。この日、初バーディーを決めると、5番、6番と3連続バーディー。首位に並び、単独首位に立ち、さらに抜け出した。
2位に3打差の単独首位で勝負の「サンデーバック9」に突入。15番パー5ではバーディーを奪ったが、くイーグルを奪った川村に1打差に詰め寄られた。
2度目のハイライトは16番。221ヤードのパー3。追い詰められて放った第1打はもう少しでホールインワンのスーパーショット。カップまで約30センチ。「お先に」のバーディーパットを確実に決めて後続を突き放した。
しかし、まだ勝負は決まらない。17番で川村がバーディーを奪い、再び1打差に追いすがった。
最後のハイライトは18番。525ヤードのパー5。フェアウェーど真ん中に豪快なショットをかっ飛ばした川村に対し、木下裕は左斜面の林に大きく曲げた。ボールは林から転がり出たことは幸運だった。第2打はフェアウェーにレイアップ。川村はピン奥3メートルに見事な2オン。大きな重圧なかかる中、木下裕は第3打をピン左1メートルへ。川村がイーグルパットを惜しくも外した後、木下裕もしびれるウィニングパットを決められず、熱戦はプレーオフに突入した。
念願のプロ初優勝への道は長く、険しかった。それでも、木下裕は歯を食いしばって戦った。
茶髪で目つきは鋭い。一見、ヤンキー系だが「めちゃくちゃ気が弱いんです。見た目だけでも偽らないとゴルフをやっていられないので」と恐縮した様子で話す。第3日終了後には「最終日、中止になりませんかね」と弱音を漏らしていた。
1番では、あわや30センチのパットをミスするというドタバタ劇を乗り越え、18ホールを戦い抜き、初のプレーオフに向かった。
◆木下 裕太(きのした・ゆうた)1986年5月10日、千葉市生まれ。32歳。8歳からゴルフを始め、多くのジュニアゴルファーを育てた北谷津ゴルフガーデンで腕を磨いた。同じ練習場にはツアー通算20勝を誇る池田勇太がいた。ジュニア時代、池田との戦績は「10回やって1回勝てるぐらい」。泉高から日大に進学したが、2007年、3年時に中退し、プロ転向。ツアー最高成績は今年9月のトップ杯東海クラシックの6位。今季、初の賞金シード獲得を確実にしている。愛車はプリウス。独身。172センチ、72キロ。