松山英樹「僕には時間がない」21歳の叫び 戦い続けたメジャー制覇の重み…09~14年担当記者が見た


◆米男子プロゴルフツアー メジャー21年初戦マスターズ最終日(11日、米ジョージア州オーガスタナショナルGC=7475ヤード、パー72)

 松山英樹(29)=LEXUS=が日本男子初の海外メジャー制覇を達成した。歴代担当記者が独自の視点で松山を「見た」。

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 人生を大きく変えた4日間だった。2011年、東北福祉大2年の松山は初めてオーガスタをプレーした。直前に東日本大震災に見舞われ、辞退を真剣に考えた。仙台の人たちから届いた激励に後押しされ出場を決断。「マスターズでのプレーが、希望と喜びを少しでも与えられたら」。何百通ものメールやファクスをファイルにとじて持参し、毎日のように眺めながら自分を奮い立たせた。「勝ちたいと思った。世界でプレーしたいってことは前から思っていたけど、勝ちたいと思ったのはあれからかな」。停電中に車のエンジンをかけ、車内のテレビで応援してくれた人もいたことを知った。

 シャツの腕に日の丸を縫いつけて戦い、27位でローアマに輝いた。優勝者のシュワーツェル、前年覇者のミケルソンと共に日本人として初めて表彰式に出席した。グリーンジャケットを羽織る勝者を眺め、「いいな。着たいなあ」とうらやみ、「その時までは日本のスーパーで緑の偽物を買って着てるっス」とおどけた。あれから10年。袖を通した本物のグリーンジャケットは、最高に似合っていた。

 初めて取材したのは10年10月の日本オープン。13年4月のプロ転向以降、松山は会う度に言った。「僕には時間がない」。目指しているものはその頃から明確だった。世界で勝てるゴルファーになること。21歳から口にし続けた「時間」の意味が、今ならわかる。海外メジャーを取ることの難しさを誰よりも理解しつつ、挑むことを決めた覚悟の表れだった。

 周囲が求める具体的な目標を口にすることを好まない。プロ転向会見で、「嫌がるかな」と思いつつ聞いた。「マスターズは松山選手のなかで特別なもの。そこが一つの目指すべき指標になるのか」。予想外の笑顔が返ってきた。「マスターズももちろん、世界で勝てるプレーヤーになりたい。メジャーは4つある。全部勝てるようになりたい」。頼もしかった。

 それでもマスターズにはこだわりがあった。「マスターズの前まで全然、眠れなかった。眠れたと思ったら2時間くらい」と漏らしたのは5年前。口下手な印象をもたれがちだが、素顔の松山はよくしゃべる。そして思慮深い。「周りは誰だって期待するもの。人それぞれの期待のかけ方で、人それぞれ考え方は違う。その人たち全部の期待に応えようとするのは無理」。ただ、その後に続いた言葉を今でも鮮明に覚えている。「でも、今の僕は頑張ってメジャー制覇という期待には応えようとしている」

 メジャー優勝への期待は高まるばかり。だが、いつだって松山は冷静だった。「周囲と自分の評価にはずれがある。そんなに簡単に勝てるなら誰かが勝っている」。体を鍛え、飛距離を伸ばし、小技の精度を高めた。真っすぐ過ぎるがゆえにもがきもしたが、「ゴルフが好き」という気持ちが変わることはなかった。震災から10年の節目の快挙。「背中を押してくれた人にいい報告ができた」。感謝を込めた72ホールが日本のゴルフ界の未来を動かした。(09~14年担当・高木 恵)

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