ゴルフはミスのゲーム。完璧なショットがスコアに反映されるとは限らない反面、バンカーショットが直接カップインするラッキーがある。どんな名手でもひとホールを完璧に乗り切る保証はないが、ミスにへこたれず我慢してやっていれば、どこかで取り返しがつくものである。そんなところからミスのゲーム。ゴルフは人生に例えられる。問題はそのミスをどう我慢するかだが、エージシューター田中さんのやり方は、あくまでゴルフは技術である。そんな主張で彩られる。
田中さんのスイングの生命線は大きなバックスイングにある。ドライバーショットは右45度を向いた超フックスタンス。左手を伸ばし、左足前に置いた球をはっし!と叩く。
だが、右に向いたままだと、右へ飛び出すと思うのは、ゴルフを知らない人だ。右に向けばフックになる。それがゴルフの常識。ところが、田中さんにはその常識が当てはまらない。
スタンスの向きにバックスイングし、叩いたボールは、ストレート、糸を引いたような低めの美しい弾道となる。フェアウエー中央に大木のあるホール、どうするかと見ていると、その上を見事な高弾道で難なく越えていくのである。
「私はドライバーショットで左にひっかけたことはありません。絶対に左へ行かない打ち方ですから」-初めて会ったとき、まだ一緒にラウンドをする前。そんな言葉を聞き驚いたことがある。なぜなら、大方のトッププロの悩みは、「大事な時のひっかけボールのミス」だからだ。「あのひっかけで林に入れたティーショットが…」「プレッシャーだった、18番でやってしまった左OBが悔やまれる…」毎週末、トーナメントで聞くプロたちの“歯ぎしり”こそ、ゴルフの本質を突く現実なのだ。
だが,150回をゆうに超えるエージシューターはそんなものはとうに解決済みだった。田中さんとは、この2か月で3回ラウンドを一緒に回りエージシュートを2回も目のあたりに見た。だが、ひっかけどころかフックボールは1回もなし。狙いより左へ飛ぶことはあってもストレートボールが左へ行った、というミス。右へのプッシュアウトも田中さんの“辞書”にはなし。
そしてこう断言するのである。「バックスイングをしっかり大きく取り右でたたくんです。右で打てば頭が残る。左で打つと頭は上がるから右で打つ。右で打つと右手は伸びる。だからグリップはアドレスで止まる。スイングはそこでおしまい、ドライバーもアイアンもアプローチ、バンカー、そしてパットもそれがすべて。それがショットです」
ついに出た。田中スイングの真髄である。
前回あげた3か条の
1、大きなバックスイング
2、ボールは右でたたく
3、インパクト即フィニッシュ
この3か条はドライバーからアイアン、アプローチからパットまで田中ゴルフの基本であることがしっかりと明示させるのである。
「ヘッドアップは頭が上がるからヘッドアップというのではありません。その解明をプロの多くはボールを見ろ、顎を引け、目を切るな、という言葉で教えるが、本質をついていない。右で打てば頭は残る。ヘッドアップは左で打ちに行くから起こります。左で打ちに行くと体は左へ流れる、その瞬間、ヘッドアップが起きている。頭が上がるのは左の使い方の間違いから、です」
右でたたくには条件がある。「バックスイングが小さいと右が使えない。林の中からミスが出るのは恐怖感から後ろが小さくなる。小さいバックスイングからは右が使えないからヘッドアップしやすいのです。ドライバーもアプローチもうまくいかないのは同じミス。飛ばそうとする力み、池が見えることからくる恐れがある。すると球に近く立ち当てようとするから手が縮む。もうその時点で右が使えなくなってしまう。だから大きなバックスイングが必要だ。大きくというのはしっかり上げるということ。それができたら右が使え、右が使えるとヘッドアップはしません」
わかっていてもできないからゴルフは簡単ではない。理屈がわかってからが難しい。
今日はヘッドアップのメカニックにとどめておく。パンチショットと他のショットとの関連こそ安定したゴルフへの道だ。田中ゴルフへの道はようやく始まったばかりだ。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。