驚異のエージシューター田中菊雄の世界9 武藤一彦のコラム─スイングは歳とともに小さくなる。だから大きくバックスイングをしなければならない


 田中さんとラウンドをするとしきりに紙にメモをする。「何を書いているのですか?」と覗き込むと「後ろを大きく。早打ちに注意。グリップをインパクト の位置にもどす」そんな言葉が読めた。「こうして気が付いたことをその日のラウンド前に、メモします。会社にいるときでも、食事をしていても、気が付いたことは紙に書き、壁に貼っておくこともしょっちゅうやる。歳をとると心配事がどんどん膨らむ。10の心配をほおっておくと30にも40にも膨らんでしまう。ゴルフはあれこれ考えすぎると迷いが出る。その迷いを整理し、その日やることを決めておけば、迷いはなくなります。だからこうして気が付いたときにメモをします」

 

左手は伸ばして使う。しかし、インパクトまでが田中スイングの肝(きも)

左手は伸ばして使う。しかし、インパクトまでが田中スイングの肝(きも)

 その日のメモを“通訳”するとこういうことだ。「後ろを大きく」は、バックスイングをしっかりとる。「早打ちに注意」は、バックスイングを大きくしようとすると、ただ大きくあげようと力んだりしがち。だから早打ちをいましめゆっくり大きくあげようぜ、と自分に言い聞かせている。そしてラウンド前のメモはその日のラウンドテーマ。集中して実行。迷いの入り込む余地はない。

 

 人は強調したいことに執心しすぎると過剰な気持ちや感覚が強調されてオーバーアクションになりがちだ。そんなことを重々、経験で知っているから「早打ちに注意」と自らに呼びかける。要は「グリップをインパクトにもどすことが大事なんだぞ。俺は今日のラウンドでそれをしっかり自分に徹底したいという気持ち」なのだ。

 

 前置きが長くなったが、今回のテーマは。左手の働き。それを伝えたくて回りくどいと知りつつ、あえて“遠回り”をしている。

 

 左手は伸ばして使う。しかし、インパクトまで。それ以上、使うな。田中スイングの肝(きも)である。「球を遠くに置きフックスタンス。大きくバックスイング、さらに切り返してインパクトまでが左の出番。これに右が同調する。でも左手はそこまでです」ずばりという。「トップで切り返したらダウンスイング以降は、右の出番。球は右手でたたきます。切り返したらインパクトまで両手は伸ばして使う。左の伸びにトップでたたまれた右が同調し右手は伸びる。インパクトでは両手がしっかり伸びパワー全開。あの理想の動きの出来上がりです」

 

 両手のしっかり伸びた名手に共通するインパクト。あのフォームが理想とされるのはクラブヘッドが左グリップを追い越してはじめてできる理想形なのだ。田中さんは言う。「インパクトとは右が左を追い越す動き。ヘッドが手を追い越すからトッププロは320ヤード、私でも250ヤードを超す飛距離が出るのです」

 

 右45度を向いた超フックスタンスは大きなバックスイングを作る基本だ。スクエアスタンスだと左手は肩の高さまでしか回らないが、フックスタンスは肩が入りやすく深くねじりやすい。そのかわり、フォローは左サイドが邪魔して回らない、窮屈だ。しかし、田中スイングは、その窮屈さを逆手にとってインパクトまででいいよ、という。これぞエージシューターの結論である。左手のしまい方?それは次回。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。