田中理論はスイングのキモ(肝)をたっぷりと内蔵して興味深い。
大きなスイングについて田中さんはこう考える。「ゴルフはグリップと姿勢と球の位置です。私が目指すのはしっかり伸ばした両手がインパクトで球をとらえることに尽きる。いいインパクトとは、グリップが球の位置に戻ったときに手が縮んでいないことをいう。ミスインパクトで一番多いのは手が縮んでしまうのが一番多い。左右の手がしっかりと伸び球をとらえ、左手を右手が追い越したときクラブヘッドが最大限のヘッドスピードで球を打ちぬく。良いゴルファーはふところを深く保ち、クラブの通り道を作り、しっかりクラブを生かす、働かせることだけをすればいい。だから姿勢です。背を伸ばしてしっかりインパクトすることだけを考えます」
ところでここで思い出すのは、田中さんのフォームだ。ドライバーを思い起こしてほしいが、右足を引いた極端なフックスタンス。右45度を向き、肩幅をはるかに越えた超広い、ワイドスタンス。そのままスタンス方向に打つと右45度に飛ぶからクラブフェースをグイッとかぶせ、飛球方向に向ける。そして、今回のテーマである、大きなバックスイングからハッシ!と叩く。こうたどってくるととんでもないフックか、ダッグフックしか出そうにない。さらに驚くのは田中さん、この構えから左手はインパクトがフィニッシュだ、という。その上、左手は左甲が上を向いた強いフックグリップ。おまけに右手はインパクトでしっかり伸ばされる。どう見てもフックボールしか出ない、と誰もが思う。
だが、実際は、矢のような球が直線を描いて飛んでいく。そして、驚いてはいけない。この打法で田中さん、「左へのミスショットというのはまずない」と絶大の自信を持っている。
こういうと、大方のゴルファーは「アッ、これは俺の世界ではない。変則打法の職人ワザ」とソッポを向く。だが、この話をプロにすると田中さんの年齢や身長,体重などを聞き「あーやっぱりね」と誰も驚かない。81歳、身長1メートル73、体重65キロ。ベテランゴルファーが加齢と非力をカバーするにはフックスタンスはこの世界では常識だ。スタンスが45度向いていようが、クラブがかぶっていようが彼らの中では球がまっすぐ行けば、それは正しい。どんなグリップ、極端なスタンスであっても結果が出れば、「正しい」のが、この世界なのだ。
改めて田中さんの登場だ。「フックスタンスは強い球を打つ体勢。スクエアよりフックの方が、バランスが悪いようだが、実際球をたたくにはアンバランスの立ち方の方がしっかり立てる。スイング中、一番したくないのはインパクトで手が縮むこと。だから離れて立ち、手を伸ばして構え目いっぱい伸ばしてたたく。大きなバックスイングは伸ばしてたたくための基本だ。正しいとされるスクエアスタンス、スクエアグリップからのスクエアスイングは理論上の理想。年を取ったら癖を生かすことを考える。フックスタンスでふところを深く保つ。背を伸ばしグリップは超フック。握力が無くなっているから左手をかぶせてしっかりと面を保てるよう抑えていけばクラブは目いっぱい働く。遠くに立って大きく上げて伸ばして球を打つ。ここ数年、私のゴルフに左OBはありません。自信をもって言い切れますよ」―
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。