3人が最終戦のメジャー、LPGAツアー選手権リコーカップまで激しい賞金女王争いを繰り広げた女子ゴルフの国内ツアーは、鈴木愛(23)が日本人4年ぶりの賞金女王を獲得し、幕を閉じた。一時は本命と見られていたのが韓国のキム・ハヌル(28)。5月から10月末まで女王争いのトップに君臨したが、6月サントリーレディスの3勝目以降はVから遠ざかり、最終戦の6位で大会連覇を逃して賞金ランク4位に終わった。「ゴルフはいい時期があれば良くない時期もある。女王になれなかった悔しさは来年に。3勝した自分を褒めたい」と“スマイルクイーン”は努めて冷静に振り返った。
1年間女子ツアーを取材した結果、ハヌルには弟でプロゴルファーのテウォン(23)の存在が大きかったと感じる。テウォンは6月から9月途中までハヌルのコーチとして本格的に帯同。2週連続優勝した5月のメジャー、ワールドレディスサロンパスカップにもスポットで帯同し、実際にバックスイングに関してアドバイスを送って奏功した。
「今まで1度もけんかをしたことがない」(弟)ほど、仲の良い2人きょうだい。ジュニア時代から遠征続きたったハヌルは、テウォンのために必ず土産を買ってきた。姉の不在を泣いてさみしがっていた弟は、プレゼントされたエビの形の大きなチョコレートを、冷蔵庫に冷やして少しずつ食べていたそうだ。
ハヌルが日本で初優勝した2年前の9月。兵役中で皿洗いをしていたテウォンの部屋の電話が鳴った。上官が取り次ぐ際のやり取りを見て「私への連絡だ。姉さんが優勝したんだ!」と直感して涙があふれた。「ナイフを洗っていて、思わず指から出血してしまった。もちろん痛いからではなく、とてもうれしかったんだ」と笑う。
今季、国内ツアー会場に同行すると美女のハヌル同様、長身でイケメンのテウォンは他の女子プロから「ハヌルの彼氏?」と何度も尋ねられた。「初めて覚えた日本語は“弟です”」と苦笑いする。都内・表参道での買い物や、韓国料理店が並ぶ新大久保によく一緒に出掛けたという。
だが、9月半ばを最後に「自らのゴルフに専念する」(関係者)という理由でテウォンの姿を会場で見かけなくなった。アジアや海外ツアーでの予選会に向けて準備を進めているそうだ。日本にいた頃「異国の地で女王争いをする姉さんの重圧は相当なものだろう」と案じていたが、秋口以降にハヌルの成績が下降したのも無縁ではなさそうだ。来季こそ、韓国で吉報を待つ最愛の弟のためにも女王に再挑戦する。(記者コラム・岩原 正幸)