「応援してくれる人に笑顔を見せたい」が口癖のイ・ボミが見せた悔し涙


笑顔が似合うイ・ボミ

笑顔が似合うイ・ボミ

 最近、何気なく漫画「タッチ」を読み返した。言わずと知れた青春漫画で、今なお人気が高い不朽の名作。第7巻で双子の弟・和也が交通事故で命を落とす。この時、幼なじみの死に直面したヒロインの浅倉南は河川敷の高架下で、人知れず泣いた。胸を打たれた読者も多いだろう。この名場面を再び見て、ある選手が頭に浮かんだ。

 女子プロゴルフで2015、16年賞金女王に輝いた韓国のイ・ボミ(29)=延田グループ=。今季は春先から不振をささやかれ、未勝利のまま開幕から3か月が過ぎた。5月最終週のリゾートトラストレディス初日。「お疲れ様でしたぁ」。72位で出遅れたが、いつも通りの明るい笑顔であいさつし、帰りの車に乗り込んだ。その直後だった。「棄権する。もう帰る」。せきを切ったように涙があふれ出した。こらえてきた感情を抑えきれない。清水重憲キャディー(43)ら関係者が必死に説得し、帰国を引き留めた。

 思えば、いつも勝った時に泣く印象が強い。「ボミ 涙の優勝」。そんな見出しを何度も見た。でも、涙はうれしい時だけ。惜敗や不調が続いても、ファンやメディアの前では、悔しさや苦しみから来るマイナスの涙を見せない。13年から専属契約する清水さんは「韓国人は負けて泣くことはない。文化的なものかもしれない」と話す。ある試合で他の選手が惜敗し、日本人の男性キャディーが号泣。大人の男が人前で涙を拭う姿を見たボミは「ありえない」と驚いていたという。

 2年間、ボミを支えてきたマネジャーは「負けた時はいろんな感情を必死でコントロールしようとするけど、勝った時はその必要がなくなる。だから、周りを気にせず泣くんじゃないか」と明かした。いたずらをしようとしても、すぐに顔に出てバレてしまうほど素直な性格。うそが苦手だが、つらい姿を隠す―それだけは守り通している。「良い時も悪い時も応援してくれる人に、私の笑顔を見せたい」。口癖のように繰り返すのは、一途な気持ちの表れだろう。

 今季は賞金ランク23位だったが、献身的なファンサービスで癒やしを与えた。イベントなどで大忙しのオフも、いつもの笑顔は変わらない。周囲が勝手に抱く期待にも、一生懸命に応えようとする。成績を残せず、顔なじみの女性記者に励まされ「かわいがってもらえて、うれしい」と瞳を潤ませた日もあった。男女問わずみんなの心を溶かす、浅倉南のような魅力。彼女の与える印象は“不朽の名作”かもしれない。(記者コラム・浜田 洋平)

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