☆「エージシュートという目標をもってやるゴルフは、時につらいこともあるが、つらさを克服することが楽な道に通じると思えば、こんな楽しいことはない」
2018年が明け田中さんのエージシュートは270回に達した。
今年初のエージシュートは1月3日、木更津ゴルフクラブの新年杯を40、39の79。新年を祝う伝統のクラブ競技での堂々のベストグロスで達成した。
当日は強風、気温が低く厳しいコンデション、年齢の82歳を3アンダーの79はその輝かしいキャリアのうちでも出色のナイスラウンドだった。「スタート直後はコースが凍っているなど厳しい条件だったが、会心のラウンド」と胸を張った。
エージシュート270回。とてつもない数字である。
71歳で70でまわる初エージシュートをやって12年になる。その足取りを振り返ると-。72歳では1回もなく、73歳で2回、75歳では4回を記録。76,77歳は各1回ずつ。「70歳に入り若い者とせりあう競技ゴルフへのこだわりを捨てた。そんなときに出会ったエージシュートだったが、取り組んでみると逆にゴルフがよくなった」。
いま思うと人生の曲がり角だった。「飛ばしと勝負へのこだわりを捨てるとゴルフが新しいものに変わった。年齢をハンデにしたスコアとの闘いには、身の丈に合った新しいゴルフの発見があった」という。
78歳になるとエージシュートは16回と急増した。以来、79歳で28回、80歳50回、81歳の時には年齢と同じ81回と実に4年連続して年齢別最多記録を更新、通算回数も185回に達した。
そして、82歳のいま、3月3日の誕生日まで3か月を残し通算回数は270回に達した。さらに年齢別記録は85回と5年連続の最多記録更新である。
ちなみに82歳で83回目の最多記録は昨年(2017年)12月28日、よみうりゴルフクラブを39、41の80で回った時のもの。その時は4バーディー、OBによるダブルボギーあり、40ヤードから、2度ざっくりのミスのトリプルボギーなど波乱万丈だった。筆者はその時、同伴競技者だったのでさらに詳細を書くと、その日はバーディーが先行するとさらに攻める積極的ゴルフが裏目に出ていた。だがダブルボギー、トリプルボギーがありながら結果を出すのだからすごい。田中さんは「行け、行け」の攻撃タイプだけではない。自分の可能性にかけアンダー記録にチャンスとなるとヒトがかわったように攻めに転じ、守りに入るともう一人の顔を持つ守りのゴルフを展開する。硬軟あわせ持って、したたかである。
かくして年齢を上回る83回目、年齢を上回る最多記録をあっさりと更新したのである。3月の誕生日までにあと3か月。あと何回、エージシュートは生まれるのか?何れにしろ、そらおそろしいような記録の誕生が約束されている。
さて、「自分の年齢と同じか、それ以下のスコアを目指すゴルフは、時につらい」と明かす田中さんである。エージシュートへのチャレンジは体力、気力の低下に抗し、自らを奮い立たせる闘い。何でもないことのようだが、「きつい」と言っている。どうやら精神的なつらさなのだろう。あるプロゴルファーが言ったことが思い起こされる。「アマにスタート前に目標スコアを設定させてラウンドすると80パーセントの人が失敗する」と。「設定したスコアはラウンドの最後になるほどにプレッシャーになり耐えられずスコアを崩す。いやアマが下手なのではない。プロでも同じであるのはトーナメントを見ているとわかるでしょう」精神的重圧がスコアを阻むのだ。
スコアにこだわってから、難しくなるのがゴルフなのだそうだ。名人はそのあたりを知ってつらさに耐えよ、それがゴルフと、われらをはげましてくれるのである。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。