驚異のエージシューター田中菊雄の世界73田中語録の5 武藤一彦のコラム


☆スイングは歳とともに小さくなる。スイングは怖い時にも小さくなる。だからバックスイングを大きくする努力が必要だ。

 

 田中さんとゴルフをしていて終始一貫、感じるのは、自分のチェックポイントがしっかり把握できていることだ。いいショットが出て「ナイスショット!」と称賛の声がかかると“ありがとうございます”のあと「今のはしっかり上がってました」と返ってくる。「上がってました」はバックスイングのことだ。

 

 ミスショットももちろん出る。そんなときには反省の弁が聞かれる。「バックスイングが浅かった。ちょっと足りませんでしたね」。“足りない”は、バックスイングがしっかりとれていない、ちいさかった、次は気を付けましょう、ということだ。

 

 ショットだけでなく例えば、パットでも「今のミスはうしろが小さかった。バックスイングをしっかりできなかったのでショートしてしまった。私の悪いくせなんですよ」などと反省が返ってくる。アプローチ、バンカー、林の中から脱出のミスの時にも、その原因はバックスイングに向けられる。“ライが悪くて”という言い訳や“またやっちゃった、下手だなあ、俺は”といった自虐の言葉は、絶対聞かれない。バックスイング、バックスイング…すべてがそこにある。

 

 エージシュートは年齢と同じスコアをめざす究極のゴルフだ。何が難しいかと言ってスコアを決めてスタートするゴルフほど難しいものはない。プロの世界の厳しさは、アンダーパーで回らねばならないという厳しさである。予選カットラインをクリアしなくてはならないという精神的重圧もある。優勝争いも予選通過ラインもそのレベルのスコアを達成できなければクリアできない。だから厳しいといわれる世界なのだ。エージシューターの田中さんは、その厳しさを知っているからバックスイングに自分のチェックポイントを置く。勝負の世界に臨むには単純明快、すぐ治せる技術的基本が必要なのだ。

 

 「ゴルフは一回のショットに一回しか許されないゲームだから難しい」とあのニクラウスがいったことがある。「?」と思ったので、いつも思い出すが、ショットは一回に一回しか打てない。やり直しは利かない難しさは帝王といわれる男にもあることがわかって、共感を覚え、親近感が増した。
 このことはいろいろなことを教えてくれる。何発も打てて、修正がきく練習場でいくらうまくいってもコースに出たら常に一発勝負。練習場は通用しないのがゴルフなのだ。

 

 「良いスイングとはバックスイングをしっかり上げることである」と、名人はいう。「年齢が増えればそれだけ体が硬くなる。恐いと思うと途端に体はこわばりスイングは小さくなる。だからバックスイングはしっかり、大きく上げる努力。そして実践だ」
 しっかり上げる、というとドライバーやアイアンショットしか思い浮かばないが、アプローチとバンカー、そして林からの脱出やショートパットも、しっかりすべてバックスイング。80歳より81歳、そして82歳の今年と年齢別のエージシュート回数を増やして名人は言い切る。そこを汲んでほしい。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。