田中さんのエージシュートは6月24日で、ついに306回を数えた。3月3日、83歳の誕生日を迎えて以来、83歳時だけで31回目である。このペースはこれまでのどの世代の時より早いスピードだ。田中さん、大いに盛り上がって「この調子だと(83歳のシーズンでは)100回も夢ではない」と恐ろしいほどの自信だ。82歳の2017年には90回をマークしているが、この調子だとシーズン100回をやってのけるに違いない。
田中さんには夢がある。「日本エイジシュート・チャレンジ協会」を立ち上げたことは前回紹介したが、高齢化社会を元気に長生き、という現代社会の命題を先頭立って実現しようという夢だ。「幸い私は元気で皆さんとこうしてゴルフをやれて幸せに過ごせている。運がいい男でたくさんの友人、知人に恵まれ家族も元気、事業も順調だ。と、こう言い切れる間に何か残しておけることはないか、と思った時、エージシュートに出会い、充実した日々をおくれている。この幸せをみんなで分かち合いたい」―
エージシュートはゴルフのうまい人しかできないが、条件がある。高齢で元気、という条件だ。まず現状を把握しておこう。
トーナメント王国の米ツアーではサム・スニードが1979年、67歳の時に66を出したのが伝説の記録として残っている。日本ツアーでは2013年の「つるやオープン」でジャンボ尾崎が66歳で62のエージシュートをやってのけた。生涯現役を目指す尾崎は、昨年のホンマ・ツアーワールドカップで70歳で70と4年ぶり2回目のエージシュートを達成。改めて偉業に脱帽だ。
しかし、エージシュートの夢の世界は50歳以上の選手だけで争う米シニアツアーだ。
2002年、61歳のウオルター・モーガンが出した60は今も残る最年少記録だ。さらに2012年、ニュージーランドの左利きの名手、ボブ・チャールスが76歳の最高齢で66、実に年齢を下回ること11アンダーはエージシュートの最大差記録。以来、エージシュートは米シニアツアーの元気をアピールする一大イベントとなっている。ヘール・アーウイン、トム・ワトソンらはシーズンで必ず複数回、マークしている。
そう、エージシュートの条件とは元気な高齢者、という絶対条件が必要なのだ。
こんなデータがある。厚生労働省によると2016年の日本人の平均寿命は、男性が80・21歳、女性は86・61歳である一方、自立した生活ができる健康寿命は男性が70・42歳、女性73・62歳。さらに日本の100歳以上の高齢者はこの時点で6万5692人に上り、この数字は46年連続更新中という明るいニュースである。
だが、同省は100歳以上の増加と平均寿命の伸びに比べ、6年前の2010年までの健康寿命との比較において、その伸びが鈍化していることを指摘し警鐘を鳴らす。即ち、100歳以上の高齢者の増加、男女の平均寿命は延びているものの、健康寿命の伸びは6年前と比べ足踏み状態だった。ということは、元気な高齢者が減少をしていることを表している。同省は健康寿命の鈍化はベッドで過ごす高齢者の増加に直結していると危惧、今後、さらなる伸長を呼び掛け、そのポイント差を10歳以内、を目標として掲げた。いい取り組みと評価し注目だ。何よりここには田中さんのめざすこととの一致がある。次回、さらにエージシュートの世界を探る。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。83歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。