驚異のエージシューター田中菊雄の世界96 武藤一彦のコラムー「学ぶが、学べ」


 田中さんのゴルフを支えるのは追求心。「学ぶが、学べ。学ぶにはまずまねることから始めよ」という。東京、品川に高輪ゴルフ練習場があったというからもう40年も前のころだ。ゴルフにはまってよく通ったという練習場では、自分とおなじ体格のスイングを見つけるとじっくり観察し、まねをした。
 「ジャイアント馬場みたいに大きければ球は飛ぶが、体のないものには無理。そんなことを考えていると同じような体形、身長でうまい人がいい球を打っている。うまいなあと見ていてこれだと思った。まねすればいいんだ。学ぶが学べと教わったが、何を学ぶかもわからない。それならまねをしよう」―今に続くゴルフ上達法だ。

 

 いろいろと“先生”はいたが、しかし、一番影響を受けたのは横峯さくらプロという話はすでに紹介した。身長155センチ、50キロそこそこの小柄だが、250ヤードをコンスタントに飛ばすロングヒッターだ。「さくらちゃんのオーバースイングといわれた。トップでぐにゃりと肘が曲がると、クラブヘッドが地面につきそうになったものだ。みんな、あんなスイングじゃ大成しないといったが、考え方だ。見ているとオーバーでもインパクトにヘッドが戻った。後ろがどんな形であってもアドレスの位置に戻ればいい。ゴルフは見た目じゃない、結果だと感化された」

 

 田中さんはオーソドックスイングを横峯さくらスタイルへ。オーバースイングをいとわず、スタンスをフックにし、さらにクローズドスタンス。極端にやるとスタンスは今の右45度近くまでクローズに。おかげで右ふところが深くバックスイングは大きく上がるようになった。「形よりそこまで上げる心意気に動かされました。すると後ろが大きければ大きいほどインパクトが強くなり頭が残ることが分かった。左手甲を上に向けフックグリップを強くしたらインパクトで両手もよく伸びた。左手が伸びたら、左ほおから左肩に壁ができた」ステイ・ビハインド・ザ・ボール。「球の後ろにとどまれ」の体感があったという。
 バックスイングはいくら上げても大きすぎるということはないー極論ではないかと思うぐらい「うしろ」にこだわる田中ゴルフ。ドライバーだけではなかった。アイアンショット、バンカー。グリーン周りのアプローチ、そしてパットにも好影響が出た。
 左の壁は、頭が上がらなくなったことで、すべて解決されていていた。
 長いパットに限らず、1メートルでもしっかりオーバーめに打つ田中さんだが、これでおわかり。バックスイングがしっかり上がれば頭は上がらない。田中ゴルフはしっかり打てたかどうかへのこだわりゴルフだが、その基準が、バックスイングがしっかり上がったかどうかにかかるのは、そんな経過があるのだった。

 

 極論すると、すべてのミスはバックスイングに通じる。ドライバーが飛ばない、アイアンの打ちそこない、バンカーから出ない、すべてバックスイングが小さいことが原因なのである。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。83歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。