煩悩ゴルフ/つねかねこうじ<5> パターイップス


私は“ビビリ”だ。
そんな私が、なぜ、大企業の部長職を辞めて、創業したのか?
それは、私が“ええかっこしい”だからだ。

 

創業は2001年。
その数年前、ITバブルが始まった頃に、夢を描き出した。
「なんちゃらドットコム」って名前のIT企業創設が、バブルのように広がっていった時期、 前職でITに携わっていた私の“ええかっこしい”を刺激しない訳が無い。
奇しくも、前職で、自信を持って上申した新ビジネスモデルが否決された。
必然の如く、馬鹿夢が生まれた。

 

“ええかっこしい”で“自慢しい“の私が、その馬鹿夢を黙っていられる訳がない。
信頼できる数名の仲間に、真しやかに馬鹿夢を語り、誘う。
誘った全員から賛同を得られた。“ええかっこしい”のドーパミンが溢れ出した。
同時に、“ビビリ”も溢れ出した。
「後に引けなくなった。失敗したらどうしよう!? 誘った仲間の人生も・・・」

 

“ビビリ”を隠し、誘った仲間に馬鹿夢を語ること数年。
これ以上決断が遅れれば、“ビビリ”がバレる。
そして、2001年、清水の舞台から飛び降りた。

 

昔から、“ビビリ”で“ええかっこしい”の煩悩小僧だった。
そのおかげで、創業できた。
煩悩老人となり、なるべくして、パターイップスを発病した。

 

イップス (yips) は、精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、突然自分の思い通りのプレー(動き)や意識が出来なくなる症状のことである。 本来はゴルフの分野で用いられ始めた言葉だが、現在ではスポーツ全般で使われるようになっている。/Wikipediaより

 

眼を閉じて打っても入る距離、30~80cmのパットでイップスになる。

 

パットが、その距離と分かったときから、少しずつドキドキし始め、平常心が失われていく。
ドキドキしているのが他のプレーヤーにバレないように、平静を装い、ラインと傾斜を読む。
あまり慎重に読んでいるとイップスがばれるので、さっと読むだけにし、パッティングスタンスを決める。
鼓動が、ドキッドキッと高まり、余計な事ばかりが、頭に浮かぶ。

 嫌な距離だなぁ! 外すんじゃないかなぁ!
 この距離を外す奴を、さんざん、あざ笑ってきた。外すと、あざ笑い返しに合うだろうなぁ!
 この距離を外す奴を、さんざん、憐れんできた。外すと、憐れみ返しに合うだろうなぁ!

 

 右に曲がると思っていたけど、左に曲がるように見えてきた!
 下りだと思っていたけど、上りに見えてきた!

 

 入る気が、全くしない!
 が、もう、そろそろ打たないと、イップスがバレる!

 

ネガティブシンキングだけが脳を駆け巡る中、バックスイング始動。
「真っ直ぐ引くだけ!」との願掛けが、空しく裏切られる。
パターフェイスは弱々しく揺れながら、内側に軌道がズレる。
「このままでは外れる!」が、「ここで止めると笑われる!」
「神様、ボールがカップに入りますように!」
で、ヘッドアップしながらヒット!

 

神頼みのボールは、弱々しく入ってくれる事もある。
が、カップを舐めて去っていく事も、そして、偶に、2度打ちも。
1ストロークなのに、パターヘッドがボールに2度当たる。
入れて当たり前のパットを外してしまう。恥ずかしさと怒りで、頭に血が上る。
返しのパットをぞんざいに打ち、また、外してしまう。。。

 

最近、1ホールのパット数最多記録を更新した。 7打!
2度打ちが入っているので、今年からの新ルールを適用しても、6打!

 

ホームコースである有馬ロイヤルゴルフクラブロイヤルコース15番564ヤードPAR5での事。


池越えのドライバーティーショット、スプーンでのセカンドショットと好調。



グリーンを狙うサードショットは6番アイアン、池にビビリながらも、左端にパーオン!


ピンは最右端、登って下りのスライスライン、約30ヤードバーディパットが残る。

 

悪魔の距離30~80cm以外のパットではイップスは発病しない。
特に30ヤードものロングパットなので、2パットのパーなら御の字だ。
気楽にパッティング。スムーズなストローク、パターの芯でヒット。
登りを駆け上がり、頂上を想定したスピードで超えた。
そこから下りのスライスライン、ボールの自重でゆっくりとカップに転がって行き、カップ手前70cmで止まる。


同伴プレーヤーから「ナイスパット!」の声。
30ヤードの登って下りのロングパットを1ヤードに近づけたのだから、ナイスパットだ。
が、私の心臓は、早くもその距離を認知し、高まり始める。

 

軽い下りスライスライン。
カップ左端内側に、パターの芯でヒットすれば入る。
ミスヒットしても、下りだから、自重で転がって入る。
入るはずだ! 多分入る! 入って欲しい! お願い神様!
ビビリ始めたら止まらない。フックラインにも見えてきた。

 

バックスイング始動。ヨタヨタの内側寄り、私の定番イップス起動。
切り返し、ボールをヒットするが、パターヘッドの先っちょで、弱々しくヒット。
カップに届かずに外すとカッコ悪すぎ! フォローストロークで押し込め!
弱々しく転がるボールを、パターヘッドが追い駆けて、2度目のヒット。しかも強め!

 

下りもあり、カップを1m以上オーバー。
頭が真っ白になり、そこから4打。
同伴プレーヤーの笑いは、憐れみに変わった。
「ちょっと難しいラインやったからなぁ!」

 

そんな事は無い!イップスやからや!
“ビビリ”のくせして、“ええかっこしい”の煩悩老人やからや!

 

煩悩は、パターを買い漁らせる。
ピン型、マレット型、L字型、L字マレット型、等々
グリップも色々と入れ替え、左利き用まで買ってみた。
憐れんだ友人が、パターを買ってきてくれた。

 

煩悩は、パターの握り方も変えさせる。
クロスハンドグリップ、クローグリップ、等々
苦労すハンドグリップ、苦労グリップだった。

 

眼を閉じて、時には、カップを見て、ボールを見ずに打つ。
パターを使わず、サイドキック。 ←これは、誰もいない練習グリーンだけ!

 

イップスを発病し、ハンディキャップは6から12へ急降下!
(スロープシステムに変わり、今のインデックスは9.9)

 

ショートパットが、私を煩わせ、悩ませる。
貪欲!「入ってくれ!」
瞋恚!「外して、イライラ!」
愚痴!「発病していないゴルファーが羨ましい!」

 

煩悩ゴルフ、菩提への道険し!

 

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常包浩司(つねかねこうじ)プロフィール
eBASE株式会社/証券コード3835 代表取締役社長
1957年3月20日生 62歳 香川県出身
ゴルフ歴35年 ホームコース:有馬ロイヤルゴルフクラブ
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