千葉・木更津GCでのプレーが増えた。新型コロナウイルスでゴルファーの生活環境にもいやが上にも変化あり。東京都内のコースは5月6日までほとんどのコースが営業を自粛。一方、関東近辺のコースは「3密」を排しながら営業を続行しているところが多い。コースは閑散、ゴルファーの数は往時の半分以下だが、健康志向の元気なゴルファーたちが春を謳歌している。
名人はグランドシニア選手権に向け臨戦態勢である。メンバーシップコース恒例の70歳以上クラスのクラブ選手権である。85歳はタイトル奪取に向け今季、最大の目標に掲げ準備してきた。昨年は惜しくも2位に甘んじ無念をかみしめたが、85歳の今年、タイトルを手にすればさらに充実感が満たされる。シニアの世界も体力、気力充実の若手有利。そんな中、85歳がチャンピオンならこれは驚き、いや奇跡である。田中さんにとって今年の最初の大きなヤマ場にやる気満々なのだ。
4月17日、木更津GCで甥の耕太郎さんとその友人と4人でラウンドした。スタート直前だ。田中さんから「今日はゴールドティーから回ります。グランド(シニア選手権)のティーなので練習しておきたいので」と明かされた。大会は19日が初日、26日が最終日の36ホールストロークプレー。大会に向け、使用ティーからの練習ラウンド宣言。そこで、耕太郎君ら若手はバックティー、6790ヤード。われわれシニアは5679ヤードのゴールドティーからのラウンドとなった。
結果は名人が85でエージシュートを達成。はるか後ろのティーから回った多摩CCの昨年のチャンピオン耕太郎君(49歳)はさすがに強く82。しかし、距離の差は問題ではない。田中さんの出来は珍しいほど悪かったことを伝えなくてならない。
まずティーショットが右に出た。右へまっすぐ飛ぶホールが2回続き右がけ下からのショット、そのあと今度は左ラフといった繰り返しに首をかしげて「おかしいな」とつぶやいた。どうやら各ホールの距離が短くてティーショットの落としどころがつかめないらしいのだ。得意のアプローチとパットで何とかエージシュートはキープ、通算552回を達成したが、大会のことを思うと不安がよぎるのだった。
ゴルフは深いゲームだ。飛ばせば楽と思うが、そんなものではない。飛んでも飛ばなくてもティーショットはフェアウエーにあってこそのゲームなのである。かつて日本ツアーで飛ばし屋のAONを、運びやといわれた飛ばない代表の杉原輝雄が、何度やっつけたことか。日本ツアー、その生涯で25勝以上を挙げた選手はその時点で永久シードの資格を獲得、すべての試合の出場資格を得るが、その4人目が杉原だった。
85歳名人だが、普段のクラブライフでは、若者と競り合って倶楽部対抗の代表になるハンデ6である。チャンピオンティーをいとわず互角で戦う“現役”だが、飛ばし自慢に浸っていると、やさしいはずのゴールドティーで痛い目に合う。ゴルフはその点、公平なゲームなのである。
その2日後の19日。ゴールドシニア第1日、名人は首位から4打遅れの3位スタート。当日は雨、風が午後に襲いみんな苦戦したが、84にまとめエージシュート達成と健闘。だが、並みいる“70代の若者“との4打の間には8人がひしめいて悲願の優勝は楽観を許さない。決勝戦は26日。さて何が起こるのだろうか。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。85歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。