女子プロゴルフで日米ツアー通算24勝の宮里藍さん(34)が2017年5月日29日、東京・新宿区の京王プラザホテルで会見し、今季限りでの現役引退を表明した。「これ以上ないゴルフ人生だった。引き際の寂しさはなく、感謝の気持ちを胸に戦えることはすごく幸せだったと思う」。45分間の会見の最後、目に涙を浮かべながら絞り出した言葉に胸が熱くなった。
気持ちが強い人だった。自分と向き合うという、決して簡単ではない作業を繰り返し続けた14年間でもあった。「モチベーションの維持が難しくなったのが一番の決め手。4、5年前から難しいと感じていた。今までやれていた練習ができなくなったり、トレーニングでも自分を追い込めなくなった。プロである以上は結果も残したいし、自分が求めている、理想としている姿がなかったので、こういう形になった」と明かした。どこまでも己に厳しく、正直な人だった。
155センチの小柄な体は、いつもエネルギーに満ちていた。試合中は自分に言い聞かせるように「目の前の一打」というフレーズを繰り返した。感情のコントロールに努めようとするゴルファーとしての宮里藍も魅力的だったが、人間くさい宮里藍も好きだった。コースで時折見せる負けん気あふれる表情や、要所でパットを沈めた瞬間に右手で作るキレキレのガッツポーズは鮮明に記憶に残っている。
初めて取材したのは2009年のNEC軽井沢だった。名刺を渡すと「宮里藍です。よろしくお願いします」とニコリと応じてくれた。まず顔の小ささに目が点になり、自らの氏名を名乗る律儀さに驚いた。金田久美子が「藍さんはすごいんです。プレーだけじゃなくて、人間としても尊敬できるんです」と熱弁してくれたことがある。藍さんを慕うプロは、今も昔もとにかく多い。ゴルファーとして人として、「ああなりたい」と思わせる存在なのだ。
藍さんが日本ツアーに戻ってくれば久々の再会を喜びあい、互いの近況を報告しあう。そんな光景をよく目にしてきた。日本ツアーの結果についても、よく把握していた。予選落ちを繰り返し、落ち込む後輩には「頑張ってね」ではなく「頑張ろうね」と声をかけた。藍さんの口から発せられるその一言は魔法のように、人を勇気づけ笑顔にする。そんな場面を何度も見てきた。「自分も頑張るから。一緒に頑張っていこうね」。そんなふうに聞こえてきた。
引退会見で若手プロへのメッセージを求められ、「ゴルフのうまい選手が多い。フィジカル的にも技術的にも。私もそこから刺激を受けた。今の日本の女子ゴルフは、いいところにいると思う。(隆盛は)永遠には続かない。感謝の気持ちを持ち続けることを大切にして、ブレずにやってほしい」。現役を退いて3年がたつ。今でも「頑張ろうね」の思いで、後輩たちの活躍を見守っていることだろう。(前ゴルフ担当・高木 恵)