驚異のエージシューター田中菊雄の世界129 武藤一彦のコラム


 アプローチのうまさがスコアメイクのカギ。エージシュート550回余の名人、田中ゴルフの原動力は100ヤード以内のアプローチとバンカーショットも含めたグリーン周りの舌を巻くうまさだ。だが、これを聞いた人からは「そりゃそうだろう、ベテランでうまい人ならアプローチがうまいに決まっている。プロだって飛ばなくなったベテランプロが若手に打ち勝つにはアプローチがうまくなくちゃ対抗できないもんな」―そんな、うがった意見が聞こえてきそうだ。

 

 だが、ゴルフはそう簡単に決めつけられない。トシを取れば勘も鈍る、衰えた筋肉は脳の指令を受け止められず、微妙なタッチ、フィーリングが出ないのがゴルフというもの。結局、うまくいかないと「俺もトシをとった」と、お決まりの“あきらめの境地”へと落ち込むのがオチだ。ところが、名人はそのあたりの悩みもすでに経験済み。「ゴルフがうまくなりたかったら年寄りとゴルフをやれ」とこともなげに言う。

 

 「グリーン周りのアプローチはパターで寄せろ」
 基本、グリーン周りはすべてパターの寄せである。そういうと“なんだ、そんなことか”と思うだろうが、基本、グリーンの周り360度からは、上り下り、砲台であろうがスネークライン、そこがラフであろうが少々のブッシュでも、ストローク上にバンカー、池さえなければすべてパターで寄せるのだ。
 名人とは5年間のお付き合いだが、グリーンまで30、40ヤードあろうが、独特の低い構えからピンを目ざす糸を引くような転がりのいい球が吸い付くようにカップに寄っていく。そればかりかときにコツン!とピンに音立てて入れるのを何度見たことだろう。すると叫ぶのである。「パターだからね、間違ったら入ることもあると思って打っている。これがゴルフだよ」マ・チ・ガッ・タ・ラ・ハ・イ・ル、に力を込めて意気揚々、グリーンを降りる姿を何度みたことだろう。

 

 パターのアプローチ。「距離感だけ。感は勘にも通じる。距離感は誰でも持っている。パターは方向が出やすくミスショットする心配がない。グリーンに届くまでの距離感だけだ。自分の感覚でパットをしてやる。面白いように寄ります」
 グリーンまで5ヤード、その先10メートル、ウエッジでグリーンぎりぎりに落として。いや、ライが悪いな、ざっくりやりそう、、など考えなくてもよい。「考えるなら、間違ったら入るという楽しみだけにしておく。みんなの驚く顔、笑い声。そんな間違いを楽しみにやってみるのです。ゴルフはトシとった人とやれ。人間みんな、歳を取るのだから今のうちに試してごらんなさい」と説得力がある。
 次回は誰でも苦手なスプーンの実践克服法だ。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。85歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。