昨年の全米オープン王者のブライソン・デシャンボー(27)=米国=が4月8日開幕の男子ゴルフの21年メジャー初戦、マスターズ(米ジョージア州オーガスタナショナルGC)で、自慢の怪力を武器にメジャー2勝目を狙っている。
昨年からゴルフ界で最も注目を集めてきた男だ。大学で物理学を専攻した“ゴルフ科学者”。プロ転向時からアイアンのシャフトの長さが全て同じなど、独特の理論で話題を集めてきた。コロナ禍となった昨春から急激な肉体改造に着手した。ツアーの中断中は1日6000キロカロリーを摂取。1日3回の激しいトレーニングを積んで、太い腕と分厚い胸板を手に入れるなど、飛距離が飛躍的に伸びた。「まるで(人気アメリカ漫画の)超人ハルクのようだ」と米メディアから例えられたほど。
昨年の平均飛距離は322・1ヤードでツアー全体で初めて1位に輝いた。19年は302・5ヤードでツアー34位だったので、約18ヤードも1年でアップしたことになる。21年も320・8ヤードで堂々の1位を走っている。筋骨隆々な肉体とともにツアートップの飛距離を手に入れ、規格外のゴルフを展開している。
その成果は着実に成績にも結びついた。昨年8月のメジャー、全米プロ選手権で通算10アンダーの4位に入った。それまで14度出場した4大メジャーでは、16年全米オープンの15位が自己最高成績だった。「自分のやり方に誇りが持てるよ」とこの大会で確かな自信をつかんだ。
そして「世界一難しいメジャー」と呼ばれる、昨年9月の全米オープンでは4日間オーバーパーなし。圧倒的なパワーでこれまでの常識を打破した。従来はラフが深く、グリーンの硬い全米オープンではフェアウェーキープが大事とされてきた。だが、昨年大会でデシャンボーはパー3を除く56ホール中、フェアウェーキープは23ホールのみ。記録の残る1981年以降、優勝者では最少。反対に、4日間平均飛距離325・6ヤードは歴代優勝者の中で最長。深いラフからでも、太い腕を豪快に振ってグリーンをとらえて見せた。「自分は競技の常識を変えていると思う。人に影響を与えられたらいい」と、誇らしげに分厚い胸を張る。
2021年もその規格外のパワーは健在だ。3月のアーノルド・パーマー招待で優勝。ファンの度肝を抜く飛距離を見せつけ、ツアー通算8勝目を飾った。会場のベイヒルクラブの565ヤードの名物ホール6番パー5で最終日にデシャンボーは、ドライバーで池越えの1オンを果敢に狙い、377ヤード先のバンカーへ。バーディーを奪い、リスク覚悟の攻めに熱狂した約5000人の観客から大喝采を浴びた。「(昨年の)全米オープンと同じく飛距離で優位に立てた」と太い腕で優勝トロフィーを誇らしげに掲げた。
これまでマスターズは16年に21位、18年は38位、19年は19位。メジャー2連勝を狙った昨年11月大会は、34位とまだ上位入りが無い。とはいえ、19年大会は初日に66で首位発進するなど、コースとの相性が悪いわけでは無い。
マネジメントが一変した昨年大会は、驚異的な飛距離を武器に4日間で18バーディー、1イーグルを量産した。ところが、体調不良に陥り全体的にミスも目立ち70、74、69、73で通算2アンダーの34位に止まった。「勝つために必要なバーディーやイーグルは取れたし、勝つチャンスはあった。それは疑いようがない。ただ、簡単なショットでたくさんのミスしてしまった」と振り返る。それでも、350ヤードと短い3番パー4で1オンするなど異次元の攻め方も披露し、話題を集めた。今年は一体どんな攻め方で頂点を目指すのか。間違いなく注目の1人となりそうだ。
◆ブライソン・デシャンボー 1993年9月16日、米カリフォルニア州生まれ。27歳。15年に南メソジスト大で、史上5人目となる全米アマチュア選手権と全米学生選手権の同一年制覇。16年にプロに転向し、翌年の米ツアー初優勝から毎シーズン勝利し、通算8勝。アイアンの長さを全て37・5インチにそろえるなど、独特のゴルフ理論で知られる。185センチ、106キロ。