驚異のエージシューター田中菊雄の世界151 武藤一彦のコラム-86歳826回目


 東京五輪が開催された今年の夏は天気が不順だ。季節外れの台風が日本を襲い、豪雨が土石流を引き起こすなど災害をもたらした。
 田中さんのエージシュートも悪天候に翻弄(ほんろう)された。7月1日、東京・桜ヶ丘CCだった。さあスタートという寸前、雷雲が襲い、そのままコースはクローズとなった。翌2日、ホームコースのよみうりGC、今度は途中、大雨が襲いホールアウトできず2日連続の記録は足踏みした。
 グリーンはあっという間に水が溜まった。いかに田中さんでも雷と水をたっぷり含んだグリーンではゴルフにならない。そこに山があるから登る、といった登山家の名言があるが、ゴルフはコースがあっても挑戦してはならないことがある。落雷は生命の危険があるから当然、必ずクラブハウスなど回避が義務付けられる。グリーンに関しては説明がいるだろう。コースに合った繊細なベントグリーンは“職人の芸術品”。豪雨で緩んだ軟弱なグリーンを歩き回って芝をいじめたらそのシーズン、ゴルフはできなくなってしまう。ゴルフには人と芝生、いわば2つの生命が深くかかわっている。

 

 7月7日、そんなアクシデントを経て、生まれたハイライトを紹介する。田中さんは茨城のイーグルポイントGC、6642ヤード、パー72を40,43の83のエージシュートで回った。コースは2週後に女子プロツアー「サマンサタバサグローバルカップ」を控えた練習ラウンド。コーチの浪崎由里子プロの練習ラウンドにお付き合いした。注目は6642ヤードの日本女子ツアーのトーナメント仕様コースを86歳が3アンダーのエージシュートで回った点である。快挙だ。女子ツアーとは言え280ヤードを豪快に飛ばす世界。そのタフな厳しいコースセッティングの中のアンダーパー・エージシュートだ。そして、驚くな、エージシュートはこの快挙をもって通算826回を数えたのである。1000回の大台も夢ではない。
 大会はママさんゴルファーの若林舞衣子プロが、出産後に優勝した6人目となる”ツアー記録”と話題。5位には東京五輪の代表を決めたばかりの稲見萌寧はじめ元気な若手をひとまとめに下したあの大会であった。33歳の若林は通算4勝目。「ママでも優勝」と話題となったが、われらが、エージシュート名人。「年と共にゴルフがうまくなっているという実感がある。コースが長く難しくなるほどに意欲がわく。エージシュートは年を取るたびに意欲を生んで、年令は関係なくなる素晴らしい世界です」

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。86歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。