エージシュートは2月8日現在973回。夢の1000回の大台まであと27回だ。驚くべきハイペースである。
田中さんの足取りを振り返ると、71歳で初めて70をマークしたエージシュートは77歳までの7年間で計10回を記録して始まった。78歳を迎え俄然、回数が増え、その年16回と初の2ケタをマーク、以後、年齢をかさねるごとに記録は急増した。80歳時には年間50回、生涯で積み重ねたエージシュートも104回に達している。
以後、年間記録は急増の一途、83歳で125回。84歳時、122回とペースを落としたものの、85歳時、年間200回を突破する218回。そして、86 歳11か月の2月、3月3日の87歳の誕生日まであと22日を残してエージシュートの年間記録は233回の最多年間記録更新中だ。生涯エージシュート数1000回の大台突破は目前である。
エージシュートは年齢をハンデキャップにゴルフの1ラウンドのスコアを争うアンダーハンデの争い。いや、誰と争うのでもない。自分との争いである。田中さんはきっぱりと言いきる。「年齢を重ねるごとに衰える体力、気力に、ああ、俺はだめだとあきらめるのは簡単。だが、元気に過ごそうと始めたゴルフ。どうせやるのなら前向きにやろうとやっている。オレは年だからとあきらめて人生、どうなるものでもない。エージシュートのおかげで、積極的に生き、歳をとるごとに若返る。今が人生で一番若いと感じる」―そんな田中さんを仲間たちは「名人」と呼ぶ。
71歳で始まったエージシュートは6000ヤードを越える白ティーを“エージシュートティー”と決めグリーン上、スルー・ザ・グリーン「ノータッチ」、グリーン上「OKなし」。いまや普段のラウンド仲間を巻き込んでエージシュート競技として定着。200人を越える仲間が集まり、一昨年春、一般社団法人「日本エイジシュートチャレンジ協会」を立ち上げ会長に座った。
昨年9月には第2回のエージシュート競技、「チャレンジカップ大会」にはハンデ90から20(注・年齢がハンデ)までの老若男女169人が参加した。優勝はハンデ86の“田中名人”でグロス82、ネット4アンダー、2位はハンデ90、エージシュート2回の最高齢の遠藤芳作さん。下位は20歳代のシングルプレーヤーたちが占め、老ゴルファーを若いトッププレーヤーが支えてほのぼのとした雰囲気がコース中を覆っていたことをここにご報告させていただく。エージシュートは競技としてもなかなかクールであった。クール?実はトム・ワトソン、1959年生まれの71歳、米シニアのチャンピオンツアーでエージシュートを何回も経験、初めてやったとき「エージシュートはクール(COOL)」といってトシを取ることの気恥ずかしさ、その中で年齢ハンデが健康で長生きしたものにしか理解できない喜びを語った言葉として忘れられない。「COOL」―日本語に翻訳できない、複雑な英語だが、明るい希望を伝える良い言葉である。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。86歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。