驚異のエージシューター田中菊雄の世界171 武藤一彦のコラム


 2023年が明けましておめでとうと言いたいところだが、実は大変な年末だった。2022年シーズン、エージシュートは順調に伸び、87歳の誕生日を迎え3月24日、1000回の大台へ。さらに6月には月間28回と自己記録を更新。さらに勢いをつけ、その後、9月までの3か月も連続で月間20回越え。そのエージシュート人生でかつてない充実ぶりを見せ大増産。11月17日には、エージシュートは通算1155回の大台に達した。だが、好事魔多し。人生は何が起こるかわからない。その17日を境に田中さんの快ペースは暗転した。
 結論を先に書く。以来、エージシュートは1か月間、いや、正確には、1か月と9日、実に39日間にわたって記録されることはなかったのである。田中さんの不調は、軽度の脳の異変が原因だった。以後、入院生活を送り、長いブランクを過ごさねばならなかった。

 

 こんな経緯だ。11月18日、東京読売CCで人気女子プロの稲見萌寧らのプロアマに出場するが、2打足りず、19日は88で1打足りず、20日は91,21日、90をたたき4日連続でエージシュートを逃した。「寒さが厳しくなりこんなこともあるさ」と気にもしないで挽回を期す”名人”には余裕があった。だが、11月22日のことだ。最も得意とするホームコースのよみうりGCで信じられない大たたきを経験した。インスタートの前半54をたたくと、なんと、午後のアウトは62、計116の大たたきである。田中さんから入った電話を再録するとこんな具合だ。
 「ドライバーのひっかけが2発も連発したり、60ヤードのアプローチがグリーンに乗らない。自分の考えていることよりも脳のとっさの判断が優先して体が動くと、こんなことが起こるんだというミスが連覇すした。ゴルフを始めて以来、かつてない大たたきだった」という。どうしてこんなことが起こるのか?混乱する中、思い当たるのは「2日前も同じよみうりGCを前半38、後半もいいペースで来ながら残り3ホールをダブルボギー、ダブルボギー、最後トリプルボギーの53の91でした。左へ打ったらいけないよと自分に言い聞かせていれば間違ってもそっちへ行かないようにやってきたゴルフだが、ここのところ脳が、とっさの判断で勝手をする。自分が考えていることよりも脳の指令が優先するから困ったものです」―さすがの名人も異変を受け止め呆然とするしかなかったようだ。

 

 70歳から取り組んだチャレンジだ。頑張れば結果がついてきて生きがい。田中さんより周囲が異変を感知、主治医の田中柳水さんに電話連絡。「すぐ来なさい」と促され川崎市内の帝京大病院へ手続きをとりそのまま入院となった。脳のMRI検査をすると「長嶋さんと同じ脳梗塞です」と言われた。驚きの診断だったが、3日間入院の結果、幸い軽症。「ゴルフは大丈夫」といわれひと安心、以後4日間自宅療養。血液がサラサラになる薬を飲みながらになるが、注目のコース復帰を11月30日に果たした。8日ぶりのラウンドは47,45の92、12月1日91,同2日96とエージシュートには4打から9打も足りず、”日頃の冴え“には及ばないが、87歳は目に光、イキイキとしている。「元気で長生きがテーマの高齢化社会でまた頑張れる、ゴルフに生かされ、今また生きがいとしてともに生きる、私は本当に幸せな男です」と再スタート再生した87歳エージシューターの新たな挑戦が始まった。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。87歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。