驚異のエージシューター田中菊雄の世界192 武藤一彦のコラム


 エージシュートは5月7日現在、1355回と快調だ。1300回を突破したのは2月19日だった。よみうりGCを雨の中、44,43の87、果敢はにバックティーから回り、大台突破をアンダーパーで飾り、89歳自らの快挙に豪快に花を添えた。

 

 2006年、71才、初エージシュートを出して以来、18年。今の時代プロアマを通じてエージシュートは珍しくないが、1300回越え、前人未踏の大記録である。何よりエージシュートを小手先の回数を追及するだけにとどまらず、神聖な競技として、グリーン上、ショートパットのOKなしの完全ホールアウト。ホールアウト後は、スコアカードに同伴競技者のサインをもらい“公式カード”をすべて保管しての取り組みである。名人のこれまでの足取りをエージシュート達成年齢とともに表にまとめた。以下の通りだ。

 

 ▽達成年齢と回数
71才  1
72才  0
73才  2
74才  1
75才  3
76才  2
77才  1
78才 16
79才 28
80才 50
81才 81
82才 90
83才125
84才122
85才218
86才246
87才178
88才136
89才 ? 

 

 「35才でゴルフを始めジャンボ尾崎の全盛、影響を受けブンブンとクラブを振り回してゴルフにはまった。40歳半ばにシングルハンデ。71才で初エージシュート、77才までの7年間で計10回のエージシュート達成。78歳からはエージシュートが毎年複数回出て80才で年間50回、83才以降は毎年100回越えた。85才では218回と初の200回越え、86歳で246回の年間自己最多達成。みんなも喜んでくれ私は幸せだ」―。自らの足跡を語った。「エージシュートはなんといっても元気をくれる。年齢と同じか、それ以上のスコアを出せ、という世界は飛ばし屋が力でねじ伏せる若者の世界だが、ここには潤いがある。元気で長生きが求められる中、広い野山を闊歩してスコアを作るゴルフはもってこいの生きがい。充実感がある」。

 

 85才のときだった。ホームコースのよみうりGC、東京よみうりCC、そして、千葉・木更津GCと、きっかり40ラウンド、ついに1日も休まず回り、すべてでエージシュートを達成した。猛暑の8月2日から9月17日まで40ラウンドを40日間連続のエージシュートだった。心技体の充実を実感した。やればできる、この時の自信は翌86才シーズン、年間246回の自己年間最多エージシュートにつながり、さらなるに自信となった」―。

 

 通算回数が300回目の大台を越えたのは2018年6月、東京よみうりCCを39,44の83のエージシュート、83歳だった。当日は、あえてバックティーからのプレーに挑戦、見事、達成した。500回目はその翌年、同じ東京よみうりCC、84歳で、42,40の82で達成。以後、800回は86歳。さらに87歳になったばかりの2022年3月24日、エージシュートは1000回の大台に達した。東京よみうりCCでこのときもバックティーからの挑戦で44,40の84、エージシュートに3アンダーの快挙だった。

 

 こう見てくると気が付くことがある。田中さんはエージシュートが勝負どころにくると必ずバックティーからラウンドする。実はここに驚異のエージシューター・田中菊雄の気概とこだわりがある。エージシュート挑戦は男性用レギュラーティ(白ティー)の6000ヤード以上のティーイングエリアと決めている。エージシュートが波に乗り出すと、より厳しい環境のバックティー、6400ヤード以上の競技用ティーへ挑戦するのである。「気持ちで負けて優しさを求めるよりも、厳しい環境(バックティしよう)で挑戦だ、と頑固なこだわり。その方が気合が入り締まってプレーできる」と、自らを鼓舞する田中流だ。
 「エージシュートを出したくて優しいコースでスコアにこだわっている」そんな口さがない声も、正直聞こえてくる。そんなやっかみ?に、それならこれはどうだ、とバックティーへ。気合を入れ、挑戦するとゴルフが良くなるのである。「エージシュート挑戦のパワーの原点です。全力投入、真っ向勝負」“気合だあ!”と態度で示して好感できる。頭が下がる。
 昨年末の12月、体調を崩しドクターストップがかかりプレーできずエージシュートはゼロ。年明け1月、エージシュートはわずか3回出ただけ、そのあとの2月も長いスランプが続いた。
 エージシュート1300回の快挙は、そんな2月29日飛び出した。体調が戻った。3月3日、89歳の誕生日迎えると翌4日、東京よみうりを42,45の87で89歳第1号を達成した。すると翌日からエージシュートは量産された。あっという間に月末までに26ラウンドで23回量産した。エージシュートが面白いように回数を重ねた。「1000回達成の裏には1打足りなかったラウンドが2200回もあった」という。
 こんなデータがある。85歳時から3年間のラウンド数とエージシュート達成数の比較データである。それによると85歳は年間317ラウンド中、エージシュート18回。86歳時、334ラウンド中246回、87才では324ラウンド中、177回だった。
 これらの記録は、次男の秀樹さんがすべて記録してデータ処理されている。このデータは田中さんのゴルフを支える上で、大いに役立っている。田中さんは言う「ゴルフはミスのゲームといわれる。だから失敗したらそれが、割に合わないとか、これだから俺はついてないなどと思わないことだという。出だしで大たたきして腐って崩れたら意味がない。大たたきしたら早くミスが出てよかった、インで頑張ろうと思う。私はミスが出たら良し、あとはナイスショットしか出ない、と喜ぶ。そうやって災いを転じて福に変える。アウトが良くてもインで崩すこともあるし、その逆もあるのがゴルフと心得て自分向けにすべてプラス志向。それがコツと心得ているのです」そのプレースタイルは実に明快である。これが田中流、エージシューターを支える原点。頭が下がる。新たな挑戦がいよいよ始まった。期待しよう。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。89歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。