驚異のエージシューター田中菊雄の世界6 武藤一彦のコラム


 驚異のエージシューター田中さんのエージシュートはついに160回に達した。1935年3月生まれ。81歳になった今年だけで56回。71歳で富士国際GC富士コース(静岡)を70でまわり、初めてエージシュートを果たしたのが2006年。以来11年間で打ち立てた金字塔だ。

 

 それにしても今年のペースはすごい。80歳代で達成した昨年の50回を7か月で超える56回だ。この夏には10ラウンド連続をやってのけたうえ、9月には最も得意とするホームコースのよみうりGCで36,36の72のエージシュートアンダー記録で回って見せた。年齢に対して9アンダーだから「エージアンダーパー」。それまでは7アンダーがベスト記録だったが、一気に2打も更新したわけだ。

 

 「トシに対して7アンダーの73で回ったのが去年、80歳の時。3回くらいありました。以来8アンダーを目標にしていたら、9アンダーがいきなり出た。ゴルフはわかりませんね。調子がよく波にのると思わぬパワーが働き、いいスコアになります。醍醐味です。エージシュートという目標をもってやっているとこうして思いもしないことが起きるからうれしくなります」淡々と、しかし、満面の笑顔がさわやかだ。

 

思い切りフックスタンスの田中さんのアドレス

思い切りフックスタンスの田中さんのアドレス

 さて、そのテクニック。右45度を向いたフックスタンス。それでいて左へフックするどころかストレートボール。左へひっかからないと絶対の自信を持つ田中スイングの秘密だ。

 「私はサル腕なのでスクエアグリップでアドレスすると両ひじの内側が顔に向き、左腕がクルクルと回転しやすくインパクトが不安定。悩んだ末に左腕にひと工夫、勝手に回転しないよう左グリップの左甲を上に向けるようにした。左甲が上を向く極端なフックグリップですが、ローリングを防ぐのには大いに役立ちました。左の無駄な回転がなくなれば右も回転しないからインパクトでフェースがスクエアに使えるようになった。それがわかってからドライバーショットがよくなりました」腕の正しい使い方のヒントいっぱいの体験談。どんなタイプのゴルファーにも考になる。

 

 田中さんのスイング。右45度を向いているからバックスイングは低くフォローも低めだ。特にインパクトはパンチ気味に打っておしまい、という感じ。聞くと「インパクトが命ですから左はインパクトしたらおしまい。そのためにアドレスで左甲を上に向けたフックグリップにしてサル腕による回転を抑えています。以来安定した弾道になり球もよく飛ぶようになった」という。173センチ、65キロの細身から250ヤードは飛ばす。確かに低く抑えたフィニッシュになっているが、持ち球はランのよく出るストレートボールは気持ちいい。時にフェード系の高い球も打ち分ける。

 

 追求するとスイングが進まなくなる。このテーマは田中スイングを知るうえで何度も出てくるので今は“そうなんだ”ということで納得してもらう。

 

 しかし、フックスタンスでフックグリップなのになんでひっかけないか。そのことについては知っておく必要がある。

 

 田中さんは言う。「私のスイングはインパクトで終わり。バックスイングを大きく上げインパクトでぶつけておしまい。そのためバックスイングは大きいほどいい。大きいバックスイングは生命線です」どうやらバックスイングが大きなカギを握るようだ。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。