田中さんのルーティンは独特だ。ルーティンとはスイングを始めるための準備。例えばドライバーショットを打つ前。ボールの後ろに立ち,目標とボールを結ぶ飛球ラインをしっかり結ぶ。ボールに近づきアドレスに入るのには4歩、左足から歩き「1、2、3、4」のステップでアドレス完了。その動作のときクラブは右手で持ちボールのうしろに右手一本でソールしたら、左手を添え、指を絡めてグリップ。ルーティンはそうした球を打つ前の準備だ。個々の動作、グリップの自分なりの仕方だけをいう場合もあれば、ショットをする前の一連の動きを総称してルーティン。ラグビーの日本代表、五郎丸選手がゴールキックするとき、両手を合わせ拝むようなポーズで集中力を高めているのが有名だが、野球のピッチャーのワインドアップなどもそれ。ゴルフでは、ショット前の重要な準備動作として自分でやりやすい動きをゴルファーは個々に持ち、ショット前にやることを習慣にしている。
田中さんのルーティン。球にアドレスすると必ず2回、3回とアドレスからトップまで上げて、おろす、を繰り返す。スタンスをしっかりとり打ち気満々、気合を入れたルーティンだ。アドレスからトップ、アドレス、トップを最低3回、場合によっては4回。腰、肩を回したらあげたクラブをアドレスの位置までしっかりと戻す。
何度も繰り返すが、田中さんは右足を極端に引いたクローズドスタンス。しかも広いワイドスタンスだから迫力十分だ。
ちょっとテーマと外れるが、スタンスに関しての田中さんの持論をここで披露しよう。「スタンスは左右つま先をそろえたスクエアを、一般的に良しとしますが、私はアンバランスの方がバランスを取りやすいのでフックスタンス。不安定な立ち方だからしっかり立とうと気を付ける、その努力、意識が緩みのないスタンスになる。私のなかでは安定したスタンスをとるためのスタンスが施行錯誤の末、今のクローズドスタンスです」パット(スタイル)に型なしというが、スタンスも型なし。エージシュートの名人は、オープン立ってスライス、クローズならフックと盲信する勉強不足を鋭く突いてくる。このあたりの受け止め方が違うのだ。こういうことだ。「ゴルフは平らなところ打てるのはティーグラウンドだけ。あとはでこぼこの傾斜ばかり、いかに安定して立って打つかが重要。でこぼこでは誰でも足場をしっかりしたいと気を付けてたとうとします。つまりバランスを崩して立つと誰でもしっかりバランスを取ろうと気を付ける。だから私は飛ばしたいドライバー、正確さを求められるアイアンもすべてフックスタンス。足場をしっかり保つことがプレーするうえでの大前提となるのです」。
納得したところで、田中さんのルーティンの目指すところだ。クラブヘッドをアドレスからトップへ引き上げるとき、できるだけ大きく上げる。そして切り返すとしっかり両手を伸ばし元の場所でぴたりと止める。そして、この繰り返しは、葉を食いしばってやる。あげる、おろす、ぴたりと止める。歯を食いしばり、球から目をはなさない。そうだ、精魂込めてやる。見ていると打たれものがある、なぜだろうと考える。そうか、インパクトはアドレスの再現だ。そんな言葉が耳元で聞こえた気がしたものだ。
「スイングはインパクトでおしまい。左手は、インパクトまでクラブヘッドをしっかりつれてくる。右手はその左についていくが左はインパクトで止まるから、そこで手をクラブが追い越す。ヘッドが走るとは、そういうこと左手はあげておろしてインパクトまで。強いインパクトは左を振らずに使うんだ」プロがいう不可解な言葉が、エージシュートの名人の口からも飛び出した。エージシュートは11月15日現在、また増えて167回を記録した。今回はここまで!
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。