ショートアイアンがうまくなればスコアは良くなる。
プロのように2オンができないのなら飛距離にこだわらず3オン。それも無理にショートアプローチをしようと欲張ってグリーン周りに打っていくのではなく、1歩も2歩も譲って残り100ヤード。そのくらいのゆとりのある方がゴルフはうまくいく。精神的にも楽だから余裕が出て、冷静なゴルフができる。
そこで100ヤードのショットをしっかりと磨いておきましょう、というのが田中さんの主張だ。
だが、いうに易く行うに難し。これが難しい。100ヤードも残してそこからが大変なのに無理を言わないで、という声が聞こえそうだ。
だが、田中ゴルフのグリーン周りのアプローチを見ていると100ヤード以内が本当に巧みだ。あげる、転がす、あげて転がす、スピンを入れて止める。自在だ。 いかにも職人,キャリアがものをいうと感心する。
だが、アプローチを見ていると、サンドウエッジで揚げたりするのはよっぽどのピンチに限られ、もっぱらパターで徹底して転がす田中ゴルフだ。「クラブの中で最もロフトのないパターは、打ちそこないがなく距離感を出しやすい。少々長かろうが、ライが悪かろうが、しっかり打てるし、そうやっているとカップインすることもある。何しろパットをやっているという安心感がある。これに勝るものはない」のだ。
というと、それと100ヤードを磨くこととどう関係があるのか、といわれそうだが、ある。100ヤードを磨いておけばピンそばがありパーになる。だが、ミスしてもグリーンにのらなくてもパターでのアプローチができれば、ボギーで上がるチャンスは高い確率で残される。そこのところが百戦錬磨の計算。そう、したたかさなのだ。
100ヤードのアイアンショット。ドライバーはじめ大きなショットやバンカーショットとなんら変わらない技術だ。
「右手で打てば頭が残る。左で打てば頭は上がる。それがわかると三角形の大事さがわかる。インパクトはアドレスの再現である」
名人はさらりと言う。
球を左で打つと体が左に流れやすく、こすり球になる。右で打ちなさい。すると右手が効き右手が伸びる、左が負けまいと頑張ると背筋がしっかり立ち頭が残る。頭を残せ、左に壁、というが、この左と右の使い方しだいでスイングは決まってくる。田中スイングのエッセンスだ。
フックスタンスでバックスイングを大きくとり、インパクト でしっかり両手が伸びたパワフルな田中スイングだが、左手と右手の役割をしっかり決め、伸びた左、叩く右が見事にマッチしてアドレスの再現がある。インパクトでは腕の三角形が保たれ、頭が残る。その瞬間、右手が左を追い越しヘッドスピードが最大限、爆発する。
100ヤードのショット。左で打つと球は右に行きやすい。右で打つと引っかかる。ところがピンは左サイドにあるとつい左主導。これがヘッドアップを引き起こしインパクト を狂わせる。だからしっかり右で打つ。左が緩まなければ頭が残る。左頬に壁ができる。すべてのショットの基本がびっしりとある。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。