悩む石川遼も覚醒!? 70歳ジャンボ尾崎の一球入魂を来年も見たい


10月6日のツアーワールドカップでエージシュートを達成した尾崎将司

10月6日のツアーワールドカップでエージシュートを達成した尾崎将司

 国内男子プロゴルフツアーで歴代最多の通算94勝を誇る尾崎将司(70)=セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ=が、この秋、存在感を増している。

 前週のマイナビABC選手権。今季、米ツアーからドライバーショットの不調に悩む石川遼(26)=カシオ=に第2ラウンドのスタート前、早朝のドライビングレンジで即席の“青空レッスン”を施し、話題を集めた。「ドライバーを打ってみろ」―。右後方からじっと観察し、スイングの間を指摘し、素振りを意識付けさせ、周囲のほかの選手たちも手を止めて聞き入っていた。

 石川とは07年12月のチャリティーコンペ以降、親交が深い。千葉県内のジャンボ邸にも招き、何度かレッスンしてきた。今回はツアー14勝の後継者の不振を見かね、救いの手をさしのべた格好だった。多くの若手はジャンボと同組でラウンドすることで、今でも技術など様々なことを吸収している。男子ツアーでは長く現役を続けるためには、を背中で示す“生きる教科書”のような存在となっている。

 レジェンド自身はマイナビABC選手権の第2ラウンドは74で、通算7オーバーの87位で4年ぶりの予選通過を逃した。ただ、ショットは好調で2年ぶりに5バーディーを奪い、ギャラリーを沸かせた。「いつでもノーボギーで回れる態勢にある」と60台を出す手応えも口にした。

 生涯獲得賞金歴代1位の約26億9000万円。永久シード保持者は、50歳を過ぎてもシニアツアーには1度も参戦せず、距離の長いレギュラーツアーでの現役に強いこだわりを持つ。それでも、腰痛や背中痛などに悩まされ、昨季は12戦で9度の途中棄権。プロ48年目となった今季開幕前、1月の誕生日に「今年が駄目だったらクラブを置く」と背水の陣で臨む覚悟と引退の可能性も示唆していた。

 今オフには下半身も鍛え直し、腰痛の治療やトレーニングも継続してきた。その努力もあって、歴代最多12度の賞金王となった最盛期に代名詞だった豪快なドライバーショットが今季復活しつつある。平均飛距離は昨季の246・86ヤードから258・31ヤードへ伸びた。クラブ契約もフリーにし、多くのクラブを試し、時代に合わせた進化も模索している。10月のブリヂストンオープン練習日では弾道測定器「トラックマン」で計測。逆風の中、278・9ヤードと20代の若手選手と引けを取らない数値もたたき出した。

 今季は出場11戦で4度の途中棄権。日本プロ選手権日清カップヌードル杯の67位が最高で予選通過こそないが、10月のツアーワールドカップでは、自身&ツアー史上2度目のエージシュートを達成した。

 エージシュートは、年齢以下のスコアでラウンドする“快挙”だ。アスリートにとって勝負やほかの選手との争いの前に存在するのが、自分の心身との戦いだ。70歳まで現役でいられるプロスポーツ選手は数少ない。慢性的な腰痛や背中痛を抱えるジャンボは歯を食いしばり、懸命にクラブを振り続けた。3バーディー、2ボギーの70。まさに執念。一球入魂の70打だった。全力を振り絞り、もがきながらも自身に打ち勝とうとするその姿に男の生き様を感じ、私は心を打たれた。

 ラウンド後、報道陣に囲まれると「男子ツアーが低迷しているし、話題を提供できたことが一番良かった。70でナイスと言われても、俺のプライドとしてはどうかなぁ」と“ジャンボ節”全開でコースを後にした。今季優勝がなければ、11月のダンロップフェニックス(16~19日、宮崎・フェニックスCC)が年内最終戦となる。

 世界の主要なレギュラーツアーでの最高齢エージシュートは、故アーノルド・パーマー(米国)の71歳。つまり来季、尾崎が達成すればその記録に並ぶことになる。2度目のエージシュート後「もう一つ上の話題を提供するように頑張るよ」と言い残したジャンボ。その言葉に、初めてエージシュートを達成した時に聞いたコメントを思い出した。

 13年4月のつるやオープン第1日。当時66歳のジャンボは1イーグル、9バーディー、2ボギーの62をマークした。17番で7メートルのイーグルパットを決めた直後、繰り出した独特のガッツポーズ、“コブラポーズ”は、男子ツアー初取材だった記者の脳裏に今も鮮明に焼き付いている。「ジャンボ尾崎ここにありだよ」「優勝争いできるのは、プロにとって一番大事なこと」―。70歳になった千両役者の目に映るのは今も、おそらく自身のツアー最年長優勝記録(55歳7か月29日)の更新だけなのだろう。

 年輪を刻む大樹のごとく、勝利への執念は古希を迎えても衰えていない。おそらくこの先、ジャンボと同じ道を歩めるプロゴルファーは日本には現れないだろう。この秋の結果を見れば、十分来年への期待を抱かせる。ぜひとも来季も現役を続けてもらい、史上最年長となるエージシュートの瞬間に立ち会って粋なジャンボ節を、一人でも多くの読者に伝えたいと願っている。(記者コラム・榎本 友一)

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