驚異のエージシューター田中菊雄の世界68 武藤一彦のコラム


  田中さんは両手グラブを使用している。年間250ラウンドはゆうに超えるラウンドの多さだ。田中さんはもともと左にしか手袋をつけていなかったが、グリップのしっくりこない部分がこすれて炎症をおこすなど悩みはあったという。そこで右手袋を使うと、劇的な感覚が生まれた。両手袋をはめるとしっくり感が増し、ショットが安定した。迷いがなくなったことで余計な心配をしないですむとショットに集中できるのだ。以来、両手手袋は田中さんのゴルフスタイルとなっている。

 

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 「プロをはじめ多くのゴルファーは、右手の感覚を大事にしたいと、グローブは左手だけにしかしないというが、それは毎日球を打つプロだからできる話。一般ゴルファーは微妙なフィーリングよりいかにしっかりグリップできるかが重要だ。私のきっかけはこすれて炎症を起こした両手の痛み防止のため右手をはめましたが、ショットの安定感が明らかに違った、以来、両手袋はやめられません。非力な女性ゴルファーは両手グリップが多いが、男性もこだわらずにやってみたらいい」とおすすめだ。

 

 田中さんのグリップは左をフックに握る。生来のサル腕で左上腕がひっくり返りやすい。そこでフックグリップに握り、左前腕を立て、右足を大きく引いた低いバックスイングから「エイヤッ」とたたく。その感覚としては「左グリップが左小指側、薬指と順にしっかり握り、人差し指に右小指をのせるオーバーラップグリップ。だが、この右手の感覚は大事で強弱をショットにつけるときは柔軟に、飛ばすときは力を入れるなど感覚が入ってくる。そのあたりの微妙な感覚は、右手の役目だ。手袋をすると、そのフィーリングが安心して使えるというか、うまくいくのです」という。

 

 「両手グリップはかっこ悪い」「ダサい」と思っていたが、試してみた。右手袋をすると何やらゴワゴワしてはじめはしっくりこなかった。だが、打ち続けているとやがて右手の力が抜けていくのを感じる。するとスイングがスムースになる。それまでの右手グリップの堅さがとれ、腕が柔らかく、ソフトに使える。そうして力が抜けると、左の堅さも取れる。そんな体感。

 

 田中さんのフックグリップ、フックスタンスは独特、バンカーやアプローチでも左グリップはフックに握る。しかし、右グリップは微妙に変わる。例えば、球を浮かせる、上げたいときには右グリップは、左手を上から覆うようにかぶせる。そうすることで。球を上からたたけるのだ。この微妙な右手の使い方は、球を遠くに置いたり中に入れたり、あるいは外に出すなど、球の位置と連動している。そこに絶妙なタッチ、フィーリングが生まれ何とも言えない、いい感じのアプローチがある。打ちたい球質を右グリップと球の位置で調節する,エージシューター田中さんの工夫があるのだ。
 その発見を訪ねると「ハイ、球の位置でボールの質をコントロールします。右手の使い方は、ボールの位置によって変わってきます」とのことだった。

 

 右手グローブは、見た目、右手が重苦しい。しかし、器用な右手を使いすぎず、時に応じてうまく使うための、手段になるのなら、取り入れてみるのも悪くない。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。