渋野日向子、東京五輪“夢から目標”「自分自身のために頑張りたい」


得意の書道を披露した渋野。目標はもちろん「金メダル」だ(カメラ・相川 和寛)

得意の書道を披露した渋野。目標はもちろん「金メダル」だ(カメラ・相川 和寛)

 昨年8月のAIG全英女子オープンを制した渋野日向子(21)=RSK山陽放送=は、東京五輪金メダルへの熱い思いを告白。日米通算24勝を挙げた宮里藍さん(34)を超える活躍を誓った。(取材・構成=榎本友一、岩原正幸、宮下京香)

 ―昨年を振り返って。

 「年間5勝できて、人生が変わった1年でした。技術はまだまだだけど、やっぱりいい意味でずぶとく最後までいけたのかな。全英で優勝してから、まさか(国内で)2勝できると思っていなかった。周りに支えてもらえたのが一番大きい」

 ―今年の最大目標は東京五輪。

 「(代表が決まる)6月末までの試合は1試合も無駄にできない。国内外のメジャーで結果を出すと世界ランクはかなり上がるので、しっかり頑張りたい。予選落ちするとランクは下がるので、しないように」

 ―五輪への憧れは2008年北京五輪のソフトボールに影響を受けて?

 「私の中で五輪のイメージは、ソフトボール日本代表の金メダル。こういう体験をしたいなと思った。小学3年くらいからソフトボールで投手をしていて、上野由岐子さんの本を読んで勉強したり。ピッチングの映像もスロー再生して見ていました。上野さんに近づきたい思いだった。東京五輪の種目にソフトボールが決まった時はうれしかったですね」

 ―東京五輪が夢でなく、目標として意識するようになったのは?

 「全英で優勝してランクがかなり上がり、現実味が出てきました。もっと頑張れば選ばれるかもしれない、上野さんと一緒に出られるかもしれないと思った。五輪って、スポーツ選手にとっては夢の舞台。一番喜んでくれるのは家族だと思う。自分自身のためにも頑張りたいし、喜んでくれる人のためにも頑張りたい。自国開催で金メダルを取るところを見てもらえたら、めちゃくちゃかっこいい。全英以上に影響を与えるんじゃないかと思いますね」

 ―全英後、注目されることに関しては。

 「取り上げてもらうことで、たくさんの人に自分を知ってもらうことは願っていたこと。21歳でそれができたのはありがたい。周りの反響が大きい中でも自分自身を見失っていないと思うので、今まで通り、これからもやっていけたら」

 ―渋野家のお正月は?

 「母と祖母がおせちを作ってくれます。私はそれを手伝う。初詣は毎年地元(岡山)の神社に行く。昨年11月の伊藤園レディスで予選落ちした次の日も行きました。今年のお正月は東京五輪のためと、無事に(シーズン後半の予選会で21年の)米ツアーに出られる順位になれるように(願う)。あとは健康。けがをしないように」

 ―昨年11月、台湾で青木コーチとともにチームとしての将来の目標を決めた。ANAインスピレーション、全米女子オープン、全米女子プロ選手権、エビアン選手権、全英女子オープン(既に優勝)のメジャー全制覇だ。

 「コーチから『5大メジャーを勝ったら引退していいから』と言われたので、それを目標にして頑張ろうと思ったんです。あと4個って、私いつになったらやめられるんじゃろ。達成するには、海外ツアーに早くから行かないとダメだと思った。それで2021年に挑戦しようと決めました。なかなか現実味はないけど、やっぱり大きな目標は必要だと思う。本当にそれをやって5個目を勝った時に引退します!と言えたら、かっこいいなと思う」

 ―2月の米ツアー、ホンダLPGA(タイ)から新シーズンが始まる。

 「今まで通りの自分を持った上で足りない部分をもっとレベルアップして、新しい自分で迎えられるようにしたい」

 ―五輪の金メダルでどんな影響を与えたい?

 「昔より絶対にゴルフ人口が減っている。ジュニアの試合に出る人数も減っている。結果を出すことで(米ツアー9勝で17年に引退した)宮里藍さんのように、いろいろな人にゴルフを知ってもらえると思う。『(渋野さんに)憧れてゴルフを始めました』と言ってもらいたい気持ちは、すごくあります。プロテストに受かる前からそうなりたいと思っていた。金メダルを取れれば、かなりの影響を与えられる。世界にも知ってもらえる」

 ―宮里藍さんの背中を追いかける?

 「藍さんが(2010年に)世界ランク1位になった時のニュースはすごく記憶にあります。藍さんが活躍されていた時にテレビで見ていたのが私たちの世代。藍さんのように、藍さん以上に活躍できる選手になりたい。誰からも好かれる人になりたいですね」

 * * * *

 渋野は書き初めを行い、初等師範(書道教室で指導できる)の資格を持つ書道の腕前を披露した。東京五輪イヤーとなる20年の抱負の「(五輪)金メダル」を筆で力強くしたためた。「“金メダイ”って書いたら笑うよね」と、しぶこ節は全開。最後の一字を書き終えると「うん、いい感じにでけた」と満足そうに笑った。

 ◆渋野 日向子(しぶの・ひなこ)1998年11月15日、岡山市生まれ。21歳。8歳でゴルフを始め、岡山・作陽高卒業後、2018年7月に2度目のプロテストで合格。19年からツアーに本格参戦し、5月のワールドレディスサロンパスカップで初優勝。国内4勝で鈴木愛(25)に次ぐ賞金ランク2位。米ツアー1勝。師匠は青木翔コーチ(36)。165センチ、62キロ。家族は両親と姉、妹。

 ◆取材後記 渋野は今回の取材の中で、今年の最大目標となる東京五輪へ「自分自身のためにも頑張りたい」と言った。これまでは「喜んでくれる人のために」頑張ってきた。「自分」という言葉が出たのは初めてだった。小学生だった08年北京五輪で、女子ソフトボール日本代表のエース・上野由岐子が日本初の金メダルに導く姿をテレビで見て以来「神様」と憧れを抱いてきた。

 ただソフトボールは東京の後、五輪種目から外れる。競技は異なるが、37歳になった上野と“ダブルメダル”を取るチャンスは東京が最初で最後になるかもしれない。真っすぐな言葉に、今夏に懸ける特別な思いを感じた。(ゴルフ担当・宮下 京香)

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