100ヤード以内の名手。田中さんを一言でいい表せと言われたら、そういうのが一番ふさわしい。
85歳時の丸1年で316ラウンドを踏破、エージシュート218回の原動力となったのはアプローチとパットだ。
中でも、パッティングはロングパットが入る確率の高さでプロ並みである。どう寄せるのかと思うロングパットを寄せるどころかガツンと入れるのを1ラウンドで必ず2,3回。1,2メートルオーバーしても返しを入れて、すまし顔である。
実はこの1年、田中さんのパッティングフォームは変わった。以前の広いフックスタンス、シャフトを短く持ち、深々とした前傾から打つ”スパイダーマンスタイル“は、両足そろえたオープンスタンス。ボールを右つま先前においてアップライト、”コツン“とタップして入れるフォームに代えた。
フォームを代えた理由は「ショートパットでラインを出しやすい」というフィーリングの問題。しかし、1年を振り返るとショートパットを“お先に”とやって、ダブルボギーでもエージシュートという最終ホールでトリプルボギーという”ポカ“で失敗したことも何度もやっているから、特にショートパットが良くなった、という印象はない。だが、100ヤードからの攻め方を見ていると、そこにエージシューターとしての成功の秘密を見ることができる。そういう意味で100ヤード以内の名手の姿が浮かび上がってくる。
これまでも紹介してきたが、グリーン周りのアプローチは途中のアンジュレーションが少々複雑でもパターを使うのが、田中ゴルフの鉄則である。
球がグリーンエッジまで2,3メートルあって、仮りに、そこがラフであったとしても、パターでアプローチすることにこだわる。なぜなら「パターは絶対打ちそこなわないクラブ」だからだ。
「バッグに入れている14本の内で最もロフトのないパターは打ちそこないがない。距離感だけに集中して打てる。こんな安心して打てる便利な道具はありません」といい、距離感だけを信じ迷わず打っていく。
“えーっ、ラフでもパター?”と驚くと「草に食われるならしっかり距離感あわせて打てばいい。打ちすぎても間違って入ることもある。ウエッジでざっくりするんじゃないか、と心配して打つより、安心安全なパターで果敢に攻める方がいいじゃないですか」全く迷いがない。
田中ゴルフは1メートルのパットをオープンスタンスの右足前の球をコツンと打つタップ式に代えただけ。だが、グリーン周りのラフからでもパターでアプローチすることで、そこはグリーン感覚。ミスしてもグリーンに乗らないことはないから楽しんでプレーできる。次のパットも間違いなく前向きでできるという利点がある。ゴルフは気分で以下用意も変わる。
85歳で316ラウンド、エージシュートは年間初の200回越えの216回。その確率は68.3パーセント。驚くばかりの高率だ。
高齢と戦うエージシュートは1打が生命。体力、気力の衰えをどう超えるかがカベ(壁)である。驚異のエージシューター田中さん。壁を乗り超えて新時代に突入だ。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。86歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。