■蝉川泰果 2022年の男子ゴルフ界に、まさにすい星のごとく現れた21歳への期待感は半端ない。プレーのスケール感、プロ意識の高さ、人間味にあふれる言動。東北福祉大4年の蝉川泰果は、魅力たっぷりの男だ。
同年9月のパナソニックオープンで1973年のツアー制施行後、史上6人目のアマチュアVを達成。10月にはメジャーの日本オープンをアマで95年ぶり2人目の優勝&アマ初のツアーV2を果たし、同31日にプロ転向を表明した。
これらの偉業が証明するスキルの高さは、記者が多くを語るまでもない。そのプロ転向表明時など昨季、何度も耳にした蝉川のこだわりが、ファンに「魅せるプレー」。単純に好スコアを出し、勝つだけでは満足しない。
ドライバーを軸に攻めの姿勢を貫く、アグレッシブなスタイル。プロとしてのツアー参戦回数が少なかったためランキングには反映されていないが、昨季のドライビングディスタンスは実質、河本力に次ぐ2位だ。しかも、精度も高く、いまだ男子ゴルフ界の「顔」のトッププロ・石川遼が「飛んで曲がらない」と表現したほどだ。
「魅せる」意識も強い。ラウンド中の移動時、コース脇のファンからは多くの声をかけられる。その声援に、しっかりと視線を向けて笑顔や会釈で対応。「強さプラス、見たいなと思われる選手になりたい」という言葉が口先だけではないことを何度も実感した。
そして、熱いハートの持ち主だ。まだアマチュアだった同4月の関西オープン。予選を首位通過し、自身初のツアー最終組で決勝ラウンド2日を回ったが、最終日にスコアを落として17位。会見では「注目もされていたと思うので、その期待を裏切ってしまったのが悔しい」と大粒の涙をこぼした。逆に前記のツアー初優勝時には、グリーン上でうれし涙の男泣き。アマ世界一と、アマのツアーVを自身より先に達成していた同学年の中島啓太に対しては「ライバル。絶対に負けたくない」と言い切り、人気では女子ゴルフ界に劣るが「メチャクチャ、負けたくない」。言葉を飾らない対応は、取材をしていてすがすがしい。
迎える2023年は蝉川にとって、プロツアー本格参戦1年目以上の意義を持つ。「早くに海外へ行きたい」と米ツアー本格挑戦を公言。いばらの道こそ、蝉川には似合う。そのためにはもちろん、国内外で好結果を残し、チャンスをつかまなければならない。覚悟を決めた男は、このオフにさらなる成長を蓄えてコースに戻ってくるはずだ。
憧れはタイガー・ウッズ。ゴルフ好きの父・佳明さんが命名した「たいが」は、その名選手にも由来するが「海外へ行っても、通じるような響きの名前にしたかった」(佳明さん)という。蝉川自身、小学5年時にテレビ番組の特集で公言した「4大メジャー制覇」の目標は、いまも変わらない。父子が描いてきた夢へ、着実に歩を進めている。(前ゴルフ担当・宮崎 尚行)
◆蝉川 泰果(せみかわ・たいが)2001年1月11日、兵庫・加東市生まれ。21歳。1歳からプラスチック製クラブでゴルフを始め、兵庫教育大付中から大阪・興国高を経て東北福祉大に進学。高校2年時に関西ジュニア選手権、同3年時に国体優勝。22年度のナショナルチーム選出。175センチ、77キロ。