驚異のエージシューター田中菊雄の世界188 武藤一彦のコラム


 田中さんが復活した。2024年1月22日、東京よみうりCCを43,42の85、年齢88才に3打、余裕の3アンダー、見事、エージシュート達成である。ホールアウトするや、「やったー」と吠えた。コースのキャディマスター室周辺は、「おめでとう」の声が渦巻く。ハイタッチの輪があちこちではじけた。通算1292回のエージシュートは2024年シーズンを飾る第1号だった。エージシュート達成は実に58日ぶり。名人はエージシュートに挑んで初めて経験する長いブランクを克服した。

 

 長いトンネルに閉ざされたのは2023年11月26日だった。「ラウンド中、腰に痛みが出てハーフでプレーをやめた。後日、座骨神経痛を発症したが、その前兆だった」と振り返る。以来、57日間、エージシュートは出なかった。12月には、ついに20日間プレーできず、下旬にプレーした6ラウンドはすべて失敗、ハーフでやめることも相次いだ。

 

 「11月末、自動車教習所で免許更新の講義で座っていたあと、立ち上ってびっくり。歩けなくなっていた」という。年間300ラウンドを優に越えるラウンドをこなす田中さんだが、体が悲鳴を上げていた。好調に伸び続けたエージシュートは11月10日以降ぱったり止まった。ゴルフ仲間で主治医でもある田中柳水先生の診断は坐骨神経痛。「最低2週間ゴルフはやめなさい」ただちにドクターストップがかかった。

 

 田中さんは12月20日までラウンドを控えた。
12下旬、ラウンド数はわずかに6ラウンド。ベストスコアが100、ワーストスコアは115。ついにエージシュートは1回も記録されなかった。オフィシャルハンデ8のエージシューター。だが、エージシュートはついに出ず、月間連続エージシュート達成の輝かしい記録はついに途絶えた。

 

 2024年が明け、田中さんの姿はコースにあった。1月2日、新年の初ラウンドは105をたたき、翌3日が97、4日は91と暖かい正月、絶好の条件にも関わらず、結果は出なかった。
 19日、よみうりGCのインスタートでハーフ40が出た。「名人!エージシュート復活か!」コース中が色めきたった。が、後半は49、トータル89はエージシュートに1打足りなかった。「残念のため息」がコースに流れた。
 そうして迎えた1月22日の名人の復活劇が、冒頭に紹介した。エーシュートを通算1292回の「ドラマ」だ。名人は見事に生き返った。勢いに乗りその3日後の25日には85、さらに、その4日後の29日が84と、エージシュート通算回数を1294回と積み重ねた。

 

 2024年。年が明け、痛みも治まり2日、恒例の東京よみうりCCの新年杯で2024年の初打ち。以来、よみうりGC、千葉・木更津CCの3コースを19日間連続ラウンドした。この時期、関東地方は好天続き。しかし、結果は出なかった。調子が出ず、エージシュートは逃し続けた。長いブランクは田中さんのゴルフを変質させた。90どころか100だ、101だ、と大たたきするのだからゴルフは恐ろしい。しかし、そんな中、嬉々として新年のゴルフを家族、仲間たちと取り組む田中さんに悲壮感は微塵(みじん)もなかった。

 

 体調を整え午前7時半過ぎにはコースへ。スタートは朝一番の8時が多く、ショット練習なし、パットだけを調整して「いってきまーす」―。全身全霊でエージシュートに取り組む姿は生き生き、見ているだけで元気をもらうのである。

 

 年明け早々、新年のご挨拶をした。「坐骨神経痛の痛み?12月21日からなくなった。いま足を鍛えている。ゴルファーにとって足は命だ。カートに乗ってラウンドしても歩き重視で毎ラウンド。毎日1万5、6千歩は歩いています」。「スコアですか?芝のうすい冬のゴルフはエージシュートの敵。僕はダウンブローに打つが、冬のうすい芝は球が上がらず難しい。90才近くなったら歩いていないとゴルフがだめになると今は足を鍛えてしっかりボールを打てるようがんばっています」。「スコア?冬場うまい人はいいスイングしている。そのために足、腰を鍛えています。暖かくなればスコアはいくらでもよくなる。その時のために頑張っている」問わず語りにエージシュートへの挑戦を語ってくれた。
 「去年は大変な年?59キロだった体重はいま65キロになった。良い傾向だ。このスポーツ、足腰がちゃんとしてないとだめですからね。去年、体調崩したとき女房に隠れてゴルフやったのがばれて怒られたけど結果です。暖かくなったら結果が出るとそれが楽しみ」「エージシュートは新たな挑戦に入った。元気で長生きで、プレーしていればエージシュートはちゃんと答えを出してくれますよ。楽しみです」
 ―もう子供のような人なのである。2024年は再スタートの年どんな。展開が待っているのだろうか。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。89歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。