パリ五輪の女子ゴルフ日本代表の笹生優花(23)=フリー=が、9日までにオンラインでスポーツ報知の単独インタビューに応じた。前回21年東京大会は母の母国・フィリピン代表で出場して9位。その後、日本国籍を選択して、パリでは日の丸を背負う。6月の海外メジャー、全米女子オープンで3年ぶり2度目の優勝を果たし、ゴルフで日本勢初の金メダルが期待される笹生は「プレッシャーより楽しみ」と、変わらぬスタイルで挑む。(取材・構成=岩原 正幸)
五輪開幕(26日)まで3週間を切り、笹生の心は躍っている。フィリピン代表で初出場した21年東京大会はコロナ禍で無観客開催だった。3年たった今回、パリは通常の形で開かれ、金メダル候補として乗り込む。
「東京ではゴルフ以外にやることが多かった。体調管理が大事なのは変わらないが、もっとゴルフに集中できる。今回は観客もいて、盛り上がる。そういった五輪も経験できるので楽しみ。(2つの国で出ることは)そんなに違いはない。ただ試合に出るという感じ。(日の丸を背負うことは)緊張はするけど重圧にはならないと思う」
全米女子オープンで男女通じて日本人初のメジャー2勝目の快挙を達成。「ジュニアの頃から一番勝ちたい試合だったので特別な大会」の結果を受け、世界ランクは30位から6位と大幅に上がり、2大会連続の五輪切符を手にした。
「3~4月頃から五輪関連の質問が多くなった。パリのことより、一試合一試合しっかり集中して、できる限り自分にそういう(出場の)チャンスをあげられたらと思っていた。(優勝して)チャンスが来て良かった」
きっかけは“イチ流”だった。米・テキサス州の家では、米大リーグで活躍したイチローさんも使った鳥取市内の研究施設の初動負荷トレーニングの器具を取り寄せ、可動域を意識したメニューをこなす。
「本格的にやり始めたのは昨年始めから。体が柔らかくなっていると感じ、けがの予防にもなる。野球選手ではイチローさんが好きで、足も速く、けがも少ない。自分もこういう体になりたいと、トレーニングのことだけでなくイチローさんのいろいろな動画を探して見るのが好きだった」
家族の支えと、地道な努力でたどり着いたスポーツの祭典。イメージとして挙げたのは躍動するアスリートの姿だった。
「五輪と言えば(マイケル)フェルプスさん(競泳)、(ウサイン)ボルトさん(陸上)。羽生結弦さん(フィギュアスケート)の4回転は知っている。石川佳純さん(卓球)も見ていた」
ゴルフを始めた頃から「世界一になる」目標を掲げる。最高峰の全米女子オープンを2度勝ち、将来の世界ランク1位も狙う。世界一を決める五輪の舞台も自分らしく、挑む姿勢は変わらない。
「(心境は)プレッシャーというより、もっと楽しみな部分がある。本当に世界一になるには、良いゴルフを長い間安定させることが必要になる。まだまだ勉強や練習が必要。そういう夢もあるから、勉強もできて、直すところもいっぱいある。夢は変わらず持っている。まずはしっかり準備して体調を崩さず万全で(五輪に)出られるように。皆さんが見て楽しいと思えるようなゴルフができればいい」
◆笹生 優花(さそう・ゆうか)アラカルト
▽生まれとサイズ 2001年6月20日、フィリピン生まれ。23歳。166センチ、63キロ
▽ゴルフ歴 5歳から4年間は日本に滞在し、8歳の時、フィリピンでゴルフを始める。18年アジア大会で個人&団体金メダル。19年オーガスタ女子アマ3位。東京・代々木高在学時の同年秋に日本のプロテストに合格。米ジョージア大に進学が決まっていたが、プロに転向
▽プロでの戦績 20年8月のNEC軽井沢72で日本ツアー初優勝し、次戦で2連勝。21年6月、畑岡奈紗とのプレーオフの末にメジャー、全米女子オープン優勝。同8月東京五輪にフィリピン代表として出場し9位
▽家族 日本人の父・正和さんと、フィリピン人の母・フリッツィさんとの間に生まれ、二重国籍を保有していたが、21年11月に日本国籍取得を発表。きょうだいは妹1人、弟3人
▽語学堪能 日本語のほか英語、タガログ語が堪能で韓国語、タイ語も少し話せる
▽好きなもの 食べものはカレー。趣味はキャッチボール、釣り
▽“イチ流”トレ 飛距離を生むスイングはけがの危険を抱え、今年から指導を受ける末野秀実トレーナーから解剖学の本を渡されて勉強中。トレーニングでは、米大リーグで活躍したイチローさんも使った鳥取市内の研究施設の器具を取り寄せ、可動域を意識したメニューをこなす
◆違う国籍で五輪に出場した主な日本人 フィギュアスケートの井上怜奈が92年アルベールビル五輪にペアで、94年リレハンメル五輪には女子シングルで出場。05年9月に米国市民権を取得し、06年トリノ五輪には後に夫となるジョン・ボルドウィン(米国)とのペアで米国代表として出場し、7位入賞を果たした。
◆五輪のゴルフ競技 1900年パリ、04年セントルイス大会で開催。以降は除外され、2016年リオ五輪で112年ぶりに正式種目に復帰。今夏のパリ五輪は男女各60選手が出場し、「ル・ゴルフ・ナショナル」で72ホールのストロークプレーで個人戦のみ開催。リオ大会で初出場の日本女子は野村敏京が4位、大山志保は42位。朴仁妃(韓国)が金メダルだった。21年東京五輪は稲見萌寧が日本人初の表彰台となる銀メダル、畑岡奈紗が9位。当時、世界ランク1位のN・コルダ(米国)が金メダルに輝いた。
◆ル・ゴルフ・ナショナル パリ南西のベルサイユ宮殿に近接する広大で平らな更地を、最高級のトーナメントを開催することを目的に設計され、1990年にオープン。2016年に全面改修され、18年には欧州ツアーと米ツアーの対抗戦「ライダー・カップ」が開催された。欧州男子ツアー「フランス・オープン」の会場でもあり、23年大会は久常涼が優勝した。起伏のあるフェアウェーに傾斜のきついグリーン、無数のバンカーと池や小川も備えた多様なショットが要求される難コース。パリ五輪は男子が8月1日から、女子は同7日から、ともに4日間行われる。