驚異のエージシューター田中菊雄の世界3 武藤一彦のコラム


 驚異のエージシューター田中さんとのラウンドは2016年8月25日、曇天の東京・稲城市のよみうりゴルフ倶楽部(GC)インスコース10番から、8時24分に始まった。最年長81歳に敬意を表しオナーをお願いすると当然のようにティーボックスに上がった田中さん。黄色のカラーボールをはっし!と叩いた第1打は低く飛び打ち下ろしの左松の枝をかすめて飛ぶと左のまばらな林に消えた。「いやあ、緊張しているな」とつぶやき笑う田中さん。2打地点に行ってみると辛うじてスイングできる打ち上げの150ヤードぐらい、旗竿の頭がわずかに見えるが、グリーンを狙うのは無理、いきなりのボギーとなった。

 

 続く11番パー5、左崖のペナルティーゾーンと右高台の林に囲まれた打ち下ろしの460ヤード、トリッキーなホール。今度はティーショットが右林、フェアウエーに戻し4オンでパーにしたが、460ヤードの短いホールでバーディーが狙えないのは想定外だったろう。12番、打ち下ろしのパー3の、ウエッジショットもグリーンに届かずボギー。最悪のスタートとなった。

 

 さらに13番だ。難易度2番目の難ホール、フェアウエーを2分する林がでんと構えたティーショット。田中さん、どうするかと見ていると、中央の大木の左を狙ったドライバーショットを、230ヤードキャリーで飛ばした。だが、行ってみると左ラフ、強い前下がりライ。さらに前方の林が邪魔して出すだけ。このホール4オンの2パットのダブルボギーとなった。「球が飛ぶ田中さんは、このホールのドラバ―ショットは必ず左狙い。うまくいくとフェアウエーに転がり出て残りが150ヤード。いつもこのホールは攻撃的」とキャディさん。だが、真夏のラフは地獄だった。グリーンまでの上り傾斜にもてこずりダブルボギー。スタートして4ホールで4オーバー。甥の田中耕太郎さんがスタートから2連続バーディーで6打差がついた。この後、興味深いやりとりが二人の間にあった。

 

甥の耕太郎さん(右)と田中さん

甥の耕太郎さん(右)と田中さん

 「若い者には、私に負けたときの言い訳を与えることにしている。私は白ティーだが、甥っ子にはバックティーから回らせます。年寄りは前のティーから回っているからスコアがいいのさ、と負けたときの言い訳できるようにしておいてやるのです」甥の耳に聞こえるように“しておいてやるのデス”に力を込める田中さん。3人の息子さんともいつもそうしているそうだ。耕太郎さん、46歳、相模原GCのハンデ6も苦笑いで受け流す。田中家にできた暗黙のルールはエージシュートを目指す田中さんの励み、子供たちの励まし。愛情が生んだローカル・ルールと受け止めたのだった。

 

 エージシュートを目指そうと決めたのは35歳。競技ゴルフを目指しハンデが5とシングルに定着した64歳の時だった。田中さんは隣の兄弟コース、よみうりCCの前半を32で回ってひらめいた。「あと半分を32で回れば64、ん?エージシュートじゃないか」―。半分でできることがあと半分でできないわけがない。そんな発想がエージシュート挑戦のきっかけだ。「それまでのゴルフとの付き合い方への反省もあった。スコアが悪ければ言い訳し、うまくいかないと落ち込む。そんな自分に疑問を持っていた時だった」。「ひとつスコアにこだわってゴルフをやってみようと。そう考えてコースを見るとレギュラーティーの白マークが見えた。そうだ、白からエージシュートを目指そう、スコアにこだわってやってみよう」―田中ワールドは発想がいい。アドレスの前のルールティン、その前に反省、人生などあらゆるものが横たわる。

 

 以来、エージシュートは138回。だが、この日は最悪のスタートを切った田中さんである。さてどうなるのでしょうか。