驚異のエージシューター田中菊雄の世界16 武藤一彦のコラム─「バックスイングは反動をつけてあげろ。大きくとるとインパクトが安定する」田中スイングの秘密1


力感あふれる田中さんのトップ

力感あふれる田中さんのトップ

 田中さんとラウンドするとある傾向があることに気が付いた。ナイスショットをすると「今のは、バックスイングがしっかりとれた」と満足気だ。しかし、曲がったり、思った飛距離が出ないと「バックスイングが浅かったな」と不満顔。これがアプローチやパットの時でも顔を出す。しっかり距離が合わなかったアプローチ、パットではカップ手前で惜しくも切れて届かなかったりすると「バックスイングがしっかりとれていなかったな」自らを戒めるようにつぶやくのだ。

 

 田中スイングはバックスイングがすべてである。一緒に回る人のスイングを見る目もそこに行く。ミスショットは、しっかり上がっていないバックスイングが元凶だから、そこに注意のアドバイスが飛ぶ。「ゴルフはグリップと姿勢と球の位置である。その関係を決めたらあとはしっかり上げてやる。しっかり上げたらグリップを球の位置に戻す。ふところを深く手を伸ばせばクラブはしっかり働く。バックスイングがすべてを握っています」

 

 筆者に叱咤が飛んだのは何回かご一緒したラウンドの時だ。「武藤さん、今のままのバックスイングでは先は見えていますよ。トップでドライバーのシャフトが地面と平行になるまでもっとしっかり体を回しましょう。トップの位置が低すぎ。それでは球が飛びません。年齢とともに衰える体力とともに飛距離が落ちるとゴルフができなくなるのが目に見えていますよ」―もちろん激励のアドバイス。バックスイングを何とか大きくしようと今、懸命の取り組み中。 それは置くとして、この叱咤こそ81歳エージシューターの心の叫び。支えとなる技術のエッセンス。そして、こだわり、実践である。田中さんより若く、それでいて30ヤードも40ヤードもおいて行かれる現実を前にしながら、それを当然のように受け止めてへらへら笑っていたことを恥じ、反省したしだい。

 

 そんなあとで見て、聞く田中ゴルフは納得がある。こういうことだ。「バックスイングは反動をつけて上げろ」がその1である。こんな提言と実践。“バックに!スイング!”と勢いつけてあげるのだという。バックにスイング!そのくらいの覚悟と実践がないと十分に上がったといえない。どうしてだかわかりますか。ゴルフスイングは球を左に打つ、球を飛ばそうとすると、誰でも左、飛球方向へ振りたがる。それが実は飛ばない原因。人間、左に意識が行くとバックスイングは小さくなる。思えば思うほど上がらなくなる。さらに怖いのは加齢、年を重ねるごとにスイングはさらに小さくなりやすい。年を取ると10の心配事、と言われるが、それが30にも40にも膨らむのだからゴルフが難しくなるだけだ。バックスイングを上げずに飛ばそうと力むからどんどん早打ちになるし当たらないのが当たり前になる。

 

 田中さんはきっぱりと言い切った。「スイングが小さくなるのはトシのせいで体が堅くなったのではありません」トシのせいにして小さなスイングで良し、と妥協する。その間違った心がゴルフをダメにする。まず、バックスイングを上げずにゴルフをやろうなんて間違った考えを捨てなさい。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。