驚異のエージシューター田中菊雄の世界25 武藤一彦のコラム─スタンスの向きではない、フェースの向きに球は飛ぶ。フックスタンスでフェースを目標ヘ向けるゴルフを目指そう【技術編】


 右足を引いたクローズドスタンスからドライバーを250ヤード飛ばす田中さん。パットもアプローチもアイアンもすべてショットはフックスタンスが基本だ。しかし、球筋、持ち球はフック一辺倒かというと違う。球筋はどちらかというとフェード。ドライバーショットは「左にひっかけることはまずありません」と絶対の自信、左林やOBもストレート系の美しい弾道でクリアして苦にしない。その安定した方向性と高低のコントロール性能には、ほれぼれする。

 

フェースをかぶせて使うフィニッシュは低く鋭い

フェースをかぶせて使うフィニッシュは低く鋭い

 基本的にドラーバーで45度のフックスタンスはスプーンや5ウッドまで、アイアンは傾斜に応じてスタンス幅、フックスタンス度が変わるが、バンカー、ショートアプローチ、パットまですべてクローズドスタンス。30ヤードくらいのあげて止めたいアプローチやピンが見えない高いバンカーショットなど難なくピンそばにつける。

 

 パットも1メートルの強いフックラインをどうするかと見ていると、フックスタンスからフェースをカップに向けると、大きくゆったりとったバックスイングからフェースを開いたままインパクト、実にうまいことラインに乗せて決めて見せる。そこにはフィーリングとかタッチという、その人だけの感覚があるようだが、一貫しているのは確かなインパクトを身につけた技術がある。

 

 ゴルフは技術。フェースの使い方とは確実なインパクトを目指す技術である。田中ゴルフにはフェースの使い方に秘密がある。スタンスはフックだが、フェースは打ちたい目標に向けているのだ。フックに立ち、45度も右を向くが、フェースは飛球ラインにスクエア。かぶせてストレートである。

 

ドライバーショット。フックスタンスにしたらフェースは飛球ラインに対しスクエアにする。つまりフェースがかぶるがこれが田中さんのストレートラインだ。アイアンも他のショットも同じである。

 

 その感覚を知るためにパットでやってみてほしい。

 

 ストレートラインの3メートルを極端なフックスタンス、パターフェースをカップに向けて打つ。右を向いてフェースだけかぶせカップに向けてコツン。左に行くと思うが、ストレートのいい転がりが出て面白いようにカップインが連続する。

 

 ウエッジでも5メートルくらいの距離からフックスタンス、球を中央に置き、フェースをカップに向ける。フェースがかぶっていうように感じるが球は素直に上がってまっすぐに転がる。転がりが良くコツをつかむとカップインする。グラスを寝かせて口をこちら向きのカップ替わりにして、家のジュータンでできる。

 

 この繰り返しはインパクトと同時にフィニッシュ。従来のパット、ショートアプローチでは上げて、下ろして、フォローだが、この構えからだと「上げて」「下ろす」の2つの動作だけである。これまでのスイングになかった感覚、あるいは忘れていた感覚に驚くだろう。田中さんの秘密は実はここに潜んでいる。「バックスイングを大きくすると必ずインパクト が良くなる。ヘッドが球にぶつかるから球が上がる感覚がわかる」。

 

 田中ゴルフの真髄を少しでも感じ取ろうと自己流スイングで工夫する試み。ドラーバーショットとパットで解明を試みたが、先に進むにあたって、いよいよアイアンショット。田中さん、去る日、アイアンをうまく打てないと泣くゴルファーに言ったものだ。「フェアウエーでは球を打つんじゃない。芝の根っこを切れ!」それは次回。きっと新しい世界が生まれる。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。