田中さんのゴルフは基本的に攻めだ。アプローチは落としどころを1点に絞り、ラインに乗せ転がし寄せるピッチエンドラン。高く上げスピンを利かせてぴたりと止めるピッチショットの二つ。いずれも落としどころにしっかり打つことが求められる。
バックスイングを大きく、インパクトで腕をしっかり伸ばす大きなスイングアークのドライバーショット。驚くほど高い球でピンを狙うアイアンショット。パットも迷うことなくしっかり打つことを常に前提に置く大胆な決め打ちだ。どの状況にも、1点に球を落とす、落としどころがある田中ゴルフ。それが攻めのゴルフを、強く見る人に印象づけ、結果的に好スコアを生み出す。驚異のエージシューターの成功は小技によるところが多い。
「攻めのゴルは絶対飛距離を持った人しかできない。若いときは“いけいけいどんどん”、若気の至りでやっていたが、60歳の時、それだけではだめだと気がついた」という。「絶対飛距離」はロングヒッター、プロの世界ならかつてのジャンボ尾崎、いまならダスティン・ジョンソン(米国)、ジェイソン・デー(豪州)、そしてロリー・マキロイ(英国)。時代のヒーローたちのパワーは320ヤードの飛距離を生みすべてのゴルファーに影響を及ぼす。だが、その恩恵に浴するのは一握り。飛ばしにこだわっていた田中さんもそのことに気が付いたのは、寄る年波を感じたの60歳だった。
「“いけいけどんどん”から守りに転じた。年齢的な選択だった。チャージ(攻撃)ばかりでなく守りも必要と発想の転換をすると沈着冷静なゴルフがみえた。自分の性格の中にある守りを引き出すとゴルフが楽になることがわかった。ゴルフは失敗のゲームである。それならミスをミスにしない小技も身につけよう」
発想の転換は田中さんを変えた。「300ヤードを目指すことをやめて分かったことがたくさんあった。例えばアイアンは距離を打つクラブであることが分かった。2打目が打てるところに球があればグリーンに乗せられなくてもそのあとのアプローチが良ければ何とかパーを拾えるんです。物理的に不可能なのはドライバーの飛距離だけ。あとはすべてなんとかなる。アイアンを磨きアプローチを楽しむ。自分で道を切り開くことなんですね」
サンドウエッジのアプローチにこだわっていた田中さん。ところがざっくりやって腐ることが多かったが、ピッチングウエッジで、3ヤード先に落とすと面白いように寄るようになった。これなら誰でもできる。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。81歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。