驚異のエージシューター田中菊雄の世界31 武藤一彦のコラム─微妙なショートパット、大胆なロングパットを次々と入れる田中ゴルフ、パッティングスタイルに形なしの名人芸【技術編】


 エージシュートは年齢との闘い。年を取るにつれて力が落ちドライバーショットが飛ばなくなる。疲れると集中力もなくなるから小技が大事だと分かってはいてもねばれない。パットの勘も悪くなり、ロングパットは寄らないしショートパットは入らないと悪循環だ。

 

 しかし、田中さん、そのあたりはことごとく解決済みだ。そのゴルフは、問題点をしっかり見極め、名人の域である。

 

 田中さんも加齢とともに飛距離は落ちた。だが、パワー不足を嘆くかわりに発想を転換すると、球は飛び、アイアンの正確度は増した。アプロ―チ、パットは自分でも驚く上達を遂げた。遂げたというと過去のこと、その進化はエージシューターとしていまが旬、バリバリの現役である。

 

 こんなことを言っている。「松山、石川がアメリカでやっているような、どのホールでもバーディーを取るゴルフ。あのゴルフを見ていると楽しくて元気が出る。だが、私にそれをやれと言っても無理。しかし、そこであきらめるか、あきらめないかでゴルファーの質が決まってくると思うのです。例えばパー4は4打で上がるようにできているのなら、まず4で上がる、それを私にできないわけがないと考えた方がいいと考えるのです。なぜならゴルフはそこから始まる。ティーショットをフェアウエーに打てば、彼らのようにバーディーチャンスに乗せることはできなくても、4で上がるチャンスはある。グリーンを外してもアプローチとパットがうまくいけば4だ。それなら何とかできるかな、と考えてからゴルフが楽しくなりました」。

 

 第2打をオンできなくてもいい、グリーンサイドからのアプローチを寄せ、パーパットを入れる。そこにエージシューターへの道筋があったというのだ。田中さん60歳過ぎたころの開眼だった。すると64歳の時、ハーフだが、4アンダーの32で回った。自信になった。パーを出す努力を繰り返しているとバーディーが生まれた。球聖と言われたボビー・ジョーンズの「ゴルフはパーおじさんとの闘いだ」という名言は本当だった。パーを狙ってやっているとバーディーがやってくる。自信はやる気を生み、ドライバーは飛びはじめ、アイアンはピンそばへ。ゴルフのレベルが上った。

 

独特の広いスタンスのパッティングは絶妙のうまさだ

独特の広いスタンスのパッティングは絶妙のうまさだ

 田中さんのパッティング。ドライバーより広いフックスタンス。右足を思い切り引いた独特のスタイルから打ち出すパットは常にカップをオーバーする。強気のパットはロングパットが良く決まると評判だ。攻撃ばかりではない。下りの1、2メートル、強い傾斜の横からのフック、スライスといったいやなラインも、インパクトでフェースを微妙に開いたり、閉じたり、独特のラインに乗せるテクニックを駆使して見事だ。まさにプロ並み?いや、自信の裏付けがある分、プロよりうまいかもしれない。

 

 アマだからこそできる技術。そう、生活のかかったプロにできないだろう冒険を楽しんでいる。エージシューターはエージシュートだけを狙って大胆、不敵だ。目指すは年齢と同じ、もしくはそれ以下のスコアだけ。敵はわが心の弱さだけと勇気をもって、なんでもやる。10メートルのロングパットをドカンとど真ん中から決めたあと、今度はヘアピンカーブのラインをコトリ、と入れ、満足そうに笑えばいいのだ。

 

 その技術。広いスタンスに秘密あり。左に全体重のかかった構えは球の芯とクラブの芯を決して外さない。そして右足を大きく引くことでできた右ふところは大きなバックスイングを生む。しっかり上げればインパクトンに狂いは生じない。ショット全般に求めるテクニックはパッティングにも生き安定したボールの転がりを生んでいる。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。