驚異のエージシューター田中菊雄さんは2017年3月3日、82歳の誕生日に千葉・木更津ゴルフクラブを82でラウンド、エージシュートを達成した。71歳で初めてエージシュートに成功して以来、実に通算186回目。ラウンドはすべてノータッチ、完全ホールアウト。偉業である。
年齢と同じか、それ以下のロースコアを出すエージシュートは生涯に1回あれば快挙とされ、アマゴルファーの夢とされるが、田中さんは今年に入ってからもこれで9回を記録して見事だ。年齢を重ねれば体力、気力の衰えはある。スコアと年齢の追いかけっこのエージシュートに取り組んで11年。田中さんのエージシュートは80歳台で50回を数え、81歳台では73回と年齢を重ねるごとに回数が急増中。そして、81歳の誕生日に早くも生まれた、通算186回目。益々の活躍が期待される記念すべきラウンドを振り返る。
午前9時5分、スタート時の気温6度。アウト2番でいきなりダブルボギーが出た。冬のゴルフは難しい。寒さで体が動かず、芝枯れのライも薄くさすがの田中さん苦労した。
右へ出た球が木をかすったりして4オン2パットのダブルボギー。さらに4番130ヤードのパー3もボギーであっという間の3オーバー。エージシュートに暗雲のスタートだ。
それでも前半を41でまとめたのはさすがだ。同伴競技者は前年、プロアマで知り合った女子プロの浪崎由里子さん、同コースのメンバーの加藤伶子さん。浪崎プロは的確なアドバイスで田中さんの信頼厚いコーチだ。
実は木更津では前日もほかのメンバー8人でラウンドした。田中さんのラウンドは常にエージシュートが目標。誕生日にかける思いが2日連続のラウンド、そして、信頼する仲間との挑戦に向けられている。何事も最大の努力を惜しまないそれが田中流。仕事もゴルフも、そう、人生も、やる以上微塵もゆるがせにしたくないのだ。
昼食は好物のステーキをペロリ。すると10番で10メートルが入ってバーディーがきた。
上体を低く構える独特のフックスタンスのパッティングフォーム。「絶対ショートしない」を信条に打つパットは球を小動物に変えて良く入る。ボールは穴に自ら入り込む動物と化けるのだ。「やっときました」と小鼻をぴくぴくさせて満足な田中さん、勢いが付いた。13番までパーが連続、通算4オーバーに浪崎プロ。「これで久しぶりに出そうですね」と同じ組の加藤さんに目くばせ、堅くなっては困るから田中さんに聞こえないようにささやいた。大丈夫の太鼓判だ。
ここ3週間ほど田中さんの調子はもうひとつだった。最後に出たのが2月8日で、以降エージシュートはぱったりと止まったまま。1打足りないことも何度もあった。田中さんの腕前、実績、精神的強さをもってしても結果が出ないことがある。ゴルフの怖さだ。
だが、次の瞬間。ゴルフの女神は試練を課すのである。信じられない田中さんの乱調が始まった。14、15、16番とボギーが連続した。16番は1メートルのパーパットを外す3パット。珍しい。田中さん、動揺している。17番のパー3だ。ショットは左傾斜へ、打ち下ろしのバンカー越えのアプローチはグリーン手前のラフ、寄せは寄らず3オンの2パットのダブルボギーとなった。
スコアは一気に9オーバー。最終ホールを残し“貯金”は1。最後をダブルボギーにしたらエージシュートはお預けの状況だ。最終ホールはパー5、いつもなら右ドッグレッグのショートカットを狙って打つティーショットを無理せずフェアウエーへ。だが、3オンを逃し1メートルのパーパットを外した。ボギーの6、最悪の上がりだった。
しかし、トータル41の82。貯金が効いた。めでたくエージシュートは達成した。「私は本当に幸運な男です。一生懸命やっていることが認められるこんな幸せなことはありません」お祝いの会で快挙を謙虚に喜んだものだ。
島根県松江市の漁師の7人兄弟の5番目は3月3日のひな祭り生まれの、本当に元気な82歳である。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。