驚異のエージシューター田中菊雄の世界36 武藤一彦のコラム─サル腕対策から生まれた田中スイング、初めにグリップ、そしてスタンス、姿勢、スコアは結果だ


 「ゴルフはグリップと姿勢、そして球の位置である」

 

 田中ゴルフはわかりやすい。だが、実際、球を前にしてグリップを考えると何が正しいのか迷う。球の位置にしても、左?右?それとももっと遠くか、近くなのかな、と思うだけで混乱する。

 

 姿勢にしたって前かがみ、アップライト、膝は伸ばすのか、深く折った方がいいのか、わからない。松山は広いスタンスからしっかりと、深く膝を折る、石川はアドレスで胸を張りアップライトだ。重量感と躍動感。見ていると理解できるが、いざ自分がやろうとすると大変。練習ではできても、いざコースで目の前の球を打とうとするとわからなくなる。すでにその時点で迷っている。これではナイスショットは望めないわけだ。

 

 このあたり田中さんはどう処理し解決したのだろう。

 

 「僕の腕はサル腕。そこでフックに構えて上腕を立てた。そのために左甲を上に向ける。それも思い切り上に向けるとなんと左上腕がしっかり立った」。

 

 サル腕とは、普通にグリップして両手をアドレスすると2本の腕の感覚が狭くなる腕だ。2本の腕が一本に使えていい、という意見もあるが、左右の腕には役目がある。

 

田中さんのグリップ

田中さんのグリップ

 アドレスからトップ、切り返してインパクトまで左は伸びた腕。右手はアドレスで肘を支点にわずかに絞られトップでは90度に曲がりインパクトで初めて伸びる腕。それぞれの働き方がある。サル腕はスイング全体からするとその動きは球を打つのに適さないのだ。

 

 そこで田中さんがやったのは、左腕を右にひねり、左甲を上に向けるグリップだった。「左上腕が立った」というのはそこのことだ。左上腕を立てるにはアドレスから左腕を右ひねり。すると左甲は上を向き極端なフックグリップ。だが、見た目は左甲が上を向くだけだが、クラブのグリップに上からあてがわれ、吸い付くような感覚がある。クラブをグリップする力強い感覚が伝わってくるのだった。極端な、という言葉を、かなり使ってきたが、しゃもじで200メートルも球を飛ばそうとするゴルフだ、極端を恐れていては、進歩は望めない。

 

左甲を上に向けたグリップはフックスタンスが隠し味

左甲を上に向けたグリップはフックスタンスが隠し味

 田中さんのスイング作りはサル腕対処法に始まりグリップ、そしてスタンスもフックへと転じた。「当てようと球に近く立ち、ぶれていたボールが遠くに立ってしっかり振れるようになった。ドライバーもアイアンも左へのミスがなくなり安定した。姿勢が良くなり縮んでいた手が伸び球の位置を遠くすることでふところが深く使えバックスイングが大きくなった」スイングが良くなると球の位置を左に置けば高く、右なら低くコントロール自在だ。ショートアプローチ、パットも良くなった。

 

 球を打てばうまくなるとたたきまくったゴルフだったが、ある時期から練習レンジには行かなくなった。もちろん、ショットの調整にレンジは利用するが、疲れて体は痛み、いざ本番と張り切ったラウンドはさんざんということはなくなった。ラウンドは練習場と決めスイング作りや冒険に費やす。スコアは?その結果だ。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。