スピンコントロールという言葉がある。ゴルフはロフト通りの球をしっかり打つことを理想とする。ロフト37度の7アイアンは7アイアンの高さとスピン量、52度のウエッジなら球の打ち出し角度を42度に保ち、球の回転数が合えばピンそばだ。古今、アイアンの名手に名選手が多いのはロフトに見合った弾道とスピンのコントロールに秀でていることを示している。
ウエッジをティーアップし払い打ち。エージシューター田中さんの成功は、ロフトを知ることから始まった。
「ティーアップし球の横から払い打った。ティーにのせて払い打ちなのでひっかるかとこわかったが、体がターンしやすく、切り返しもスムース。右手でインパクトできるのでフェースに球が乗る体感があった。フィニッシュが同じ高さにおさまるのも驚きだった」
羽川プロは「インサイドから球を打て、それでフィニッシュを同じ高さでおさめられたらナイスショット。その形と感覚を覚えたら成功」と教えた。ハンデ12の60歳のころ。シングルハンデ入りを目指していたときのことだ。
その当時の田中さんのスイングはアウトサイドにあげ、上から力任せに打ち込んでいた。いわゆる“つぶし打ち”だ。プロは「それでは、ロフトは生きてこない」と教えた。7番も9番アイアンも、おなじ距離しか飛ばないと嘆くアマが良くいるが、田中さんもロフト通りに打てない欠点を抱えてもがいていた。だが、ティーアップした球を打つとロフトを信じ素直に生かす事の大切さを知った。
この練習法。素晴らしい。実は試してみた。
100ヤードをしっかり打つことを目指し、ウエッジショット。案の定と引っかかった。これまでアイアンが苦手、最近はシャンクに悩んでいたがティーアップしてこの始末、地面の上の球を打つなんてとても無理だったと反省した。
しかし、恐れずしっかりバックスインするとやがてリズムが出る。さらに切り返しで、思い切って右でおろすとナイスショットだ。右を使うには左をしっかり伸ばしグリップすると右手が“安心”してヘッドが走るのだろう。気持ちの良い手ごたえ。そして何より頭が残るのである。“あっ、これがインパクトか”、の感覚がうれしかった。
ウエッジから7アイアン、ユーティリティーといずれもティーアップ。そして、次にティーアップと地面に置くのとを交互にやる。心配したのは地面に置いたときにナイスショットの再現ができるかどうかが心配だったが、あっさりクリアした。出来上がったスイングは簡単に崩れなかった。
おかげで4つのパー3のティアップショットの練習ができた。何より、払い打ちは地面の上でもしなくてはならないことが分かったのは大きかった。アイアンショットは上から叩け、いつのころからか、とりついた“悪魔の教え”は嘘のように消えていた。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。