驚異のエージシューター田中菊雄の世界60 武藤一彦のコラム─エージシュート名人は初ラウンドの夏泊ゴルフリンクスを77、エージシュートに5アンダー、とてつもないスコアで回ってみせた


 田中さんがまたも快挙を達成した。
 6月27日、田中さんは青森県の夏泊ゴルフリンクスにいた。同コースは本州最北端、北緯41度に位置し、青森湾に面した丘陵地にあり、東洋のスコットランドと呼ばれる名物コース。県外から訪れるゴルファーに人気で、夏場は関東、関西、遠くは九州からのゴルファーの姿も見られる。

 

 羽田発午前7時過ぎのJAL便で発ち、10時にはコース入りした田中さん一行、加藤伶子さん、女子プロの浪崎由里子さんは11時過ぎには早い昼食とり18ホールを一気に回るスルーのラウンドをスタート。青森は梅雨がないといわれる通り微風、快晴の絶好のコンデション。コースの緑が、遠く函館を望む青森湾をバックにうかびあがる中、乗用カートでスタートした田中さんはなんと77、実に82歳の年齢を5打下回る5アンダーで回った。

 

 エージシュートは82歳になって27回目、通算212回目となった。例年になく速いペースで増えている。今回タフな夏泊ゴルフリンクスの6378ヤード、パー72でマークされた。その評価は新たな伝説を生んで語り継がれることになる。

 

 71歳で初エージシュートを達成以来、使用ティーを白ティーと呼ぶレギュラーティーを自らの”トーナメントティー”と決めた。白ティーを基準にすれば全国どこのコースでエージシュートを出しても大手を振って公認される。むろん、それ以上距離のあるティーならさらにエージシュートの評価は高くなるという先見である。実は田中さん、エージシュートを、高齢化社会を元気で過ごすシニアの健康促進への手段としたい。そんな夢をもっているが、それは後に置くとして、、、

 

 その全ラウンドは冬場などライの悪いときなどに使われる”6インチプレース”のウインタールールはなし、いわゆるノータッチプレーが大前提。さらにグリーン上の”オーケーパット”も認めず完全ホールアウトと決めている。エージシュートを目指しエージシュートを競技としてシニアゴルファーの励みにしたい、そんな田中さんの夢は見事夏泊での212回目につながった。71歳から今日までの”栄光の歴史”である。

 

 だが、今回は初ラウンドのコースでのいきなりの偉業達成だ。数々の記録で驚異のエージシューターと呼ばれる田中さんだが、夏泊は初ラウンド。過去に6回しか前例がない。

 

 初コースでエージシュートを出すことがいかに大変であるか。ゴルフを知る者には驚き以外のなにものでもないだろう。エージシュートはコースを知り尽くした者の熟練度に対する評価である。コースを熟知しグリーンの癖をわかっていてもミスが出るのがゴルフだ。そのラウンドが人生に例えられるのは、甘く見ると付け込まれ、おびえればさらに試練が襲いかかることは誰もが経験済み。風が吹き、猛暑が見舞えば体力が持たずおごり高ぶるとしっぺ返しを食う。エージシュートはそんな試練を乗り越えた者だけに許される称号である。酸いも甘いもかみ分けたゴルファーだけに許されるエージシュートを初ラウンドのコースで出す、というのはゴルファーの持っている資質、熟練度の大きさ、深さ、を測るバロメーターとなる。初コースでいきなりエージシュート6回の記録は別表の通り。

 

〇田中さんの初コース、初エージシュートの記録

コース年月日年齢スコア
富士国際・富士コース06・6・871歳70
森永高滝CC14・5・2879歳※80
釧路CC14・7・2179歳※80
中条GC17・5・382歳※83
朝霧ジャンボリー17・6・1182歳82
夏泊GL17・6・2782歳77

 ※は数え年でコースが認定したもの。

 

 ラウンドを振り返る。1番パー5をパー、2番のドライブ・アンド・ピッチのセカンドを60センチにつけるバーディー、5番、最高地点まで打ち上げのパー5をボギーとしたが7番まで1バーディー、1ボギーのパープレー。3人とも初ラウンド、キャディーさんまかせの手探りのラウンドをまるでメンバーのような危なげないラウンドだ。1995年の日本プロ選手権の開催コースを澄んだ水面を滑るように回る田中さん。完璧なショット、初めての高速グリーンも絶妙のパットで次々とクリアしコースとの相性を自分位引き寄せた。ベテラン、職人ならでは、さすがだ。8番の左ドッグレッグでセカンドを右にミスしてダブルボギー、9番のパー4はドライバーを右山に打ち込みボギーとしたのが惜しまれるが、それでもアウトを39だった。
 インは12番でボギーにしたが、15番の打ち上げのパー4は180ヤードをピン右まで運び7メートルのパットをカラーからねじ込むバーディーとインもパープレーと完ぺき。この後16番で3打目を「バーディー欲しさに無理をして」⦅田中さん)OB、ダブルボギーにしたが、17,18の難ホールをパーでまとめ38。エージシュートに5アンダーは82歳になって1か月後の4月、ホームコースのよみうりGCを75,7アンダーなどに次いで今季3番めの好スコアだった。だが、驚くのは翌28日にあった。それは次回。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。