富士山軍団と名づけよう。
日本シリーズで宮本勝昌が優勝し、にわかに脚光を浴びたのは、芹沢信雄をリーダーに藤田寛之、宮本勝昌を含めた3人が構成する芹沢軍団の存在である。
今回も藤田、宮本の応援に芹沢の姿は当然のようコースにあった。左肩を痛めた藤田を気遣い、優勝を争う宮本を心身両面において支えた55歳の芹沢。45歳の藤田をカメ、42歳の宮本をウサギにたとえそのゴルフを静と動の対局におき、指導奨励、激励叱咤する。静岡・御殿場に生まれ、みずからもツアー5勝を挙げシニアツアーの中心的プレーヤーであるが、宮本の優勝でそのリーダーシップが改めて注目を集め始めた。
「富士山軍団」と呼ぶ根拠は、富士山を望む静岡を拠点とする面々だからだ。宮本は熱海の出身。藤田は福岡生まれだが、ゴルフの才能を認められ東京・専大で活躍、プロとなったのち静岡・掛川に住む。3人が出会って25年になったという。ゴルフ界は青木、尾崎、中島のAON時代で隆盛を見たが、その中で3人はひっそりと身を寄せ合って仲睦まじかった。
数年前の宮崎、あるトーナメント開催地の夜の街は、選手はじめ大会関係者でにぎやかだ。そんなある晩、レストランで3人と顔を合わせたことがあった。キャディーらも含めたテーブルにきちんとすわっていた。料理が運ばれてくると突然大きな声が聞こえた。「いただきまーす」の唱和である。見ると彼らが両手を合わせ、ごちそうを前にあたまを垂れるのである。
いい風景を見た思いで感動した。感謝の気持ちをああして毎日、食事時にも持って生活している。小さいが、統率のあるすばらしいグループだな、と思ったものだ。
“芹沢の思想”が隅々にいきわたって富士山とオーバーラップする。富士もまた日本の象徴としてこのたびようやく世界遺産となった。外観、姿だけではなく富士の与える内面が認められた。富士山軍団と呼ぶゆえんである。
軍団は富士のような広い裾野を抱く。静岡といえば、伊豆半島の名門・川奈だが、日本のゴルフ発祥の重要な拠点である川奈こそ軍団のルーツである。
芹沢の師は石井隆文。石井姓は川奈に多く石井治作、茂、哲雄の3兄弟は有名だが、芹沢の師もまたその遠戚である。日本シリーズの第1回チャンピオン石井朝夫、杉本英世、内田茂、村上隆も川奈出身。
宮本の師は石井明義、女子プロツアー驚異のパワーヒッター渡辺綾香の先生でもある。そして藤田の師も川奈の寺下郁夫。葛城の名伯楽として藤田ら男女のプロゴルファーを育てた。
名門・川奈の流れをくむ芹沢を中心とした新しい波は富士の裾野、御殿場で大きく根を張ろうとしている。宮本のシリーズ3勝、カムバック優勝の感動の渦の中で芹沢は素直に受け止めていた。
「時代の流れを感じる。伝統の重みが心地いい。心して軍団を意識してやっていきたいと思う」といった。「本気で女子プロを育てたいと思っています」という。時代はこうして動いているのだろう。