驚異のエージシューター田中菊雄の世界66 武藤一彦のコラム─靴にも履き方がある。「ゴルフがうまくなりたかったらシューズの紐はしっかり締めなさい」と名人は言った


 田中さんとのラウンドをしていたある時、田中さんが「スイングに力強さがない。そうだ、靴を見せてごらんなさい」という。「靴?シューズですか?」といぶかると「ハイ、どんなシューズの履き方をしているか、知りたいのです」というと、やおら足元にかがみこんで靴ひもの締まり具合や、かかと靴の間の隙間に指を入れ、点検するといった。
 「靴ひもはもっとしっかりと締めていただきたいですね。靴が大きすぎるのかと思って気になっていたが、はき方がよくありませんね。いましらべると、足が靴の中でもぞもぞと動いている。紐をしっかり締めていないのです。これでは強い球は打てませんよ」というと靴ひもをほどきしっかり、痛いほどに締めなおすのだった。

 

 スイングに力強さがない、締まりがない。気にかかってはいたが、紐をしっかり締めていない、とは意外な指摘だった。

 

 だが、名人のいうことだ。聞き耳を立てるとさらに言った「足はスイングの土台。靴と足がしっくりなじんでいないようではいいスイングはできません。足の指でしっかり地面をつかまえるのです」

 

 「足指で地面をつかめ」とは昔からいわれる。例えば青木功のべた足打法は、インパクトの瞬間、指全体で地をつかむ、と本人に聞いたことがある。青木スイングはスローモーション映像や連続写真で見ると両足が地面に吸い付いている。そんな目でみるとプロやうまい人のスイングはそれぞれフォームこそ違え、スイングの、インパクトの瞬間は、両足が地をつかんだべた足で、スタンスはスイングの土台であることの実践を見せてくれる。
 そういえば樋口久子を育てた伝説の名手,中村寅吉さんは弟子たちに裸足で球を打たせた。静岡の名門コース、川奈は多くの名手を輩出しているが、プロになるまでの研修生時代、昔の底がゴム底の運動靴しかはかせてもらえなかった。足裏の感覚、強固な足元はめざした先人の実践がそこにある。

 

 名人は靴ひもを締めることでその感覚を知りなさい、と言いたかったようだ。靴ひもをしっかり締めるだけでその感覚と実践が味わえるならとしっかり締めた。すると確かに足がかるく、それでいてしっくり感がある。足に意識が強くはたらくせいか、手打ちがなくなりスイングがしやすくなった、ような気がした。

 

 「ゴルフは理屈ではありません。結果です。80代の爺さんが80くらいで回る、というのは結果だ。クラブをどう働かせるかを追求するのがゴルフなら靴ひもくらいしっかり締めましょう」と“締まったゴルフ“の推奨。要は心も締めて頑張れとの激励と受け止めた。そういえば田中さん。腰のバンドもしっかり締め。そのうえ、すごい締め技も実践していた。それは次回。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。82歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。