田中ゴルフのラウンドをする上でのコンセプトは実にシンプル。「18ホールのラウンド中、フルショットするのはたったの30発だけ」と言い放つ。ゴルフは何が大事か、ゴルファーは何をしたらいいのかを考えると、この問いかけをムゲに無視できない。説得力がある。
すなわち、14回のドライバーショットのあとの2打目のウッドとアイアンショット14回の合計28発が基本のフルショットであとはパー3のティーショット、パー5の2打目、3打目など。それがゴルファーの力いっぱいのショットだ。
ゴルファーは飛ばしにこだわり「飛ばすコツ」などという言葉には鋭く反応するが、それでいて90、時には100というスコアと生涯、付き合う変なスポーツ。思えば、こう見てみると見当違いのところで無駄な努力を繰り返している、そんな気がしてくる。
田中さんの見解。「ゴルフは、どちらかといえば振るという単純な動きを長時間かけて続けるマラソンレースみたいなスポーツ。アプローチやバンカー、パットの間にアイアンのフルショットやドライバーショットがある。そんな考え方をしたほうがわかりやすいかもしれません。すると、フルショットしなくてはならない30発への取り組み、付き合い方が理解しやすい。私はドライバーをギンギンでたたきショートホールやピンを狙うアイアンの30発に全力投入、しかし、そのほかのショットは全く別物。スコアメイクは18ホールをしっかり振れればあとは寄せとパット次第。力の配分、取り組み方は全然ちがっています」
アイアンは距離を打つクラブだからコントロールの要素が入るし、フルショットとはいえどちらから。ショットもふくめ。アイアンのフルスイングは10数発、あとはコントロールショット。だから100以上たたくハイハンデキャッパー、18前後のゴルファー、さらにはプロにも一様に30数発は大事なノルマ打数、確かに、18ホールでしっかり振れればあとは寄せとパット次第だ。
ラウンドでフルショットするのは30数発。たったそれだけしか打てないのか、と思うとなにかいい加減に打つのがもったいないような気がしてくる。数少ないフルショットを徹底的に磨こう、という考え方になり、目の前のモヤが晴れるようで新鮮な気分になる。
ティーグラウンドではティアップが許されるのが“特典”と思えることもわかって、緊張感が緩んだような気もする。これからはもっと積極的にショットできそうに思えてくるから不思議。ティーグランドではひたすら距離を欲しがって無茶振りしラフに入れるより、正確なショットでフェアウエーをキープしたほうが良いことも示唆している。田中名人だからこそ、こんなデータを見つけだしたのだろう。参考にしたい。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。83歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。