エージシュート350回を越える田中さんの実力を知りたくて18年11月、秋の1日。東京・渋谷区恵比寿のビルにあるインドアゴルフ施設「ゴルプラ」に田中さんを伴った。最新スイング分析マシーン、トラックマンによるショット分析を行い、その技術、うまさ、強さの秘密をデータ面から解明しよう。そんな魂胆。何しろ83歳の今年だけですでに85回のエージシュートを記録している(11月19日現在)。これはこれまでの最多、82歳時の90回のペースをはるかに上回るハイペース。年内に上回るのは時間の問題なのだ。とにかく3ラウンドに1回はエージシュートを出す人だ。するとあった、見つかった。驚きの結果だった。診断したのは、2007年の関西オープンチャンピオンの山本幸路プロ。いきなりドライバーショットを打ち始めた田中さんが2,3発打った瞬間、思わず声を上げた。「信じられない。ヘッドスピードが42。年齢的には考えられない」驚きの声だった。
実在コースをリアルに再現したシュミレーター画面に向かって打つドライバーショットは瞬時にヘッドスピード、飛距離、打球の方向などを数値化して映し出した。山本プロは「田中さんのヘッドスピード40から42。一般男性で40を超えることは少ないが田中さんはこともなげに超えています。仮にヘッドスピードが41で、ミート率が高ければ240から250ヤードは飛ぶが、42なら252ヤード行きます。とんでもない数値です」
この日、打ったドライバーショットは約30発。だが、飛距離は215から220ヤード止まり。“これはどういうことですか?”と聞くと山本プロ「ミート率が悪い。芯を食えば、250も可能だが、インパクトにばらつきがあるということです」ということだった。
ミート率、数値でいうと1コンマ5とか6の世界。インパクトで球の芯とクラブの芯が一致するミクロの世界だ。そこで、ここでは数字は置くとして、例えば宮里藍さんの現役時代のヘッドスピードは40といわれた。それでいて250ヤードを飛ばしたのはミート率が抜群に高かったという事実である。つまりこれが田中さんの今後の課題というわけ。宮里さんを越えるにはいまのヘッドスピードを守りミート率を上げればよい。成功すれば250どころか、270ヤードがその先に見えてくる、ということだ。
ドライバーを打ち続け田中さんの額に汗が光った。「ドライバーは1ラウンドで14発しか打たないクラブ」と位置付け、一球入魂。しかし、シュミレーター相手ではコースの感覚が出ないのだろう。「ミート率はティーの高さや感覚で違ってくる。今後のテーマとなった」と納得して、次に7アイアンを手にする。
ヘッドスピードはクラブが短くなっても41、その飛距離は141、135、150ヤードの数値を示し、ここでも一般のレベル以上、83歳では驚きの数字を出した。ただし、飛距離のばらつきはやはりミート率にはっきりと表れた。普段のラウンドで180ヤードを8アイアンで乗せる田中さんを何度も見ているが、アイアンショットはコースで様々な姿を見せるクラブ。飛距離にこだわるよりしっかり芯で打つクラブ、ここでもミート率の大切さに話は落ち着くのだった。
スイング分析は約1時間。「40歳の時、ヘッドスピードを測ったら44から45あった」と田中さん。山本プロは「その強い筋力は年令的に多少落ちてはいても、体の強さとしていまも維持されている。昨年230ラウンドされたそうですが、筋力が維持されていてできること」と評価した。田中さんには思い当たることがある。「エージシュートって麻薬だ。エージシュートをするという宿題を背負っているので、筋力、体力には気を遣う。そのため1年の三分の一に当たる230ラウンドもしなくちゃならない。はっきり言えることは1週間に1回のゴルフでは筋力が落ちて今のゴルフはできないでしょう。そう思うから、年ごとにラウンド数は増えていますよ」練習場にはいかず、ラウンド中心、エージシューターの田中さんはラウンドが筋力維持の場であり、エージシュート挑戦の場。だが、この日の分析では田中さんのすごさが改めてプロによって解明された。それは次回に。
◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。83歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。