驚異のエージシューター田中菊雄の世界108 武藤一彦のコラムー元気新ルール元年


 2019年が明けエージシュートは1月19日現在383回に達した。今年の正月は暖かくホームコースのよみうりGCでも順調に回数を増やした。第2週の週末には恒例となった沖縄遠征でも成功した。この調子だと3月3日の誕生日前までに目標の400回は行くかもしれない。あと2か月で17回だ。
 だが、ゴルフではこうした予測に立った期待はご法度である。いけると思ったとたん、好調なゴルフがぱたりと止まることはツアーの最終日を見ても明白だ。米PGAツアーのデータによると、第3ラウンドで首位に立った選手の優勝する確率は23パーセントだそうだ。ということは2位以下の逆転の確率は77パーセントにも上る。どんなに調子がいいからといって、そのリズムが狂わない保証はない。スコアはやってみないとわからない、のである。エージシュート名人の田中さんだって、例外ではない、何が起こるかは神のみぞ知る。だから田中さんには余分なプレッシャーをかけるのは禁物だ。

 

 そんなわけでエージシュートとは関係のない新ルールである。周知のとおり今年1月1日をもってゴルフルールが大幅に改正された。世界のルールは4年に1回、オリンピックイヤーに改正されるのが恒例だが、20年東京五輪・パラリンピックの1年も前に発表されたのは異例。五輪種目に復活したゴルフ界が、ゴルフの普及をにらんで、かなりの覚悟でルールを大幅改正したという、その中身と実際。例えばー
 グリーン上のパットである。従来は、旗竿は抜かないといけなかったが、これからはそのまま打ってもかまわない。
 ドロップの方法も、これまでは肩の高さから落としたが、ひざの高さからでよい。
 ゴルフは目標に打つターゲットスポーツ。遠い球から順番に打つ“遠球必打”が原則だったが、これからは準備が整った人から「お先に~」と打ってもかまわなくなったし、バンカーが苦手なら、目標に近づかない範囲でバンカーの外に2打付加してプレーすることも認められた。
 かなり大幅な変更点だな、と思うのは、球探しの最中に偶然球を動かしてしまっても罰はなく元の通りにリプレースするだけでよし。打った球が自分のバッグに当たっても罰はなし。
 グリーン上のスパイクマークはこれまで修復できなかったが、直してもよくなった。急速に行き渡った距離測定器、高低差を測るのはだめだが、2点間の距離を測定するのはオーケー。その情報を互いに教えあうのもかまわない。ただし風向きの情報交換はいけない。
 日本ゴルフ協会(JGA)が変更点を要約、解説した項目は27に及ぶ。ずいぶん多いな、と思うかもしれないが、根本理念としては、従来“こんな厳しくしなくてもいいじゃないか”と思われたものを前向きに改正した。ゴルファーにはその“思いやり”がうれしい。
 例えばバンカー外へのアンプレアブル。どう打っても自分の技術では出ない、と判断したらそのバンカー外の後方に基点を決めて、2打罰で球とホールを結ぶ線上で、その後方から1クラブレングス以内にドロップできる。これはバンカーが苦手な人や練習したことがないままコースに出たビギナーには“朗報”だ。
 ゴルフは審判のいない唯一の競技。ルール無知は許されない。大きく変わったのはウォーターハザードの概念だ。ラテラルウォーターハザードなど水域を一括してウォーターハザードと呼んだが、今後「ペナルティエリア」に一括した。深いブッシュ、崖を「ゼネラルエリア」とし、そこではソールをして打てる。水域は打つことができれば打ってもいいが、従来通りノーソール。双方とも救済を受けるときは1打罰となる。これらの設定はコース側が決めるものだから、ブッシュや崖などのゼネラルエリアはこれから増えてきそうだ。
 パットの旗竿の扱いは3つ。立てたまま、抜いて、そしてキャディにつきそわせる。ただし立てたまま打つ時、球が止まるまでピンを抜いてはならない。違反すれば1打罰。
 距離測定器に関しては、世界ツアーでは禁止だ。JGAの主催競技では日本オープン、同女子オープンでは禁止。日本アマでは使用可と決めた。アマ競技はセルフバッグのプレーが多いための措置だ。

 

 全体に意地悪な罰、不必要な罰を無くし、必然の罰に統一した。ラフの球探しで偶然、球を踏んだなどに罰がついた場合はゴルファーには釈然としないことがあったがこれで解決だ。そのかわり自分の判断によるミスには厳しくなった。スタンスに合わせてクラブをおく。キャディを後ろに立たせて方向を決める。自分の順番が来て40秒以内に打つこと。球探しは5分から3分に短縮、など自己の責任に介意するものは厳しくなった。この狙いはスロープレーの撲滅にある。ゴルフはプレー時間の短縮の時代に入ったのである。

 

 田中さんは13日、沖縄で3ラウンドをこなし喜瀬CCで82、帰京してホームコースで15日、74で382回目、19日81で383回とエージシュートを達成した。新ルールによる新時代を堂々とクリア、中でも15日の74は年齢を9アンダー、の快記録である。83歳ながら飛距離が出るのでフェアウエーでは待つことが多かったこれまでだが、新ルールでは林の中でもたもたしている人がいると、「お先に打ちますよ~!」と断ってショット。それから駆け足で球探しと、忙しいラウンドのようだ。もともとは競技出身、いやクラブ対抗では代表になるなど今も現役「せっかちな年寄りには新ルールは、おあつらい向きで~す」と生き生きとしている。

 

 ◆田中 菊雄(たなか・きくお) 1935年3月3日、島根・松江市生まれ。83歳。神奈川・川崎市を拠点にリフォーム、食品など5社、社員400人を抱える「北山グループ」取締役会長。東京・よみうりGCなど4コース所属、ハンデ5。初エージシュートは06年8月、71歳のとき静岡・富士国際富士コースを70で回った。173センチ、65キロ。