バーディー”祭り”でも失速しても…成田美寿々が地元・千葉を勇気づける理由


帽子に応援バッジを付けてプレーする成田(カメラ・今西 淳)

帽子に応援バッジを付けてプレーする成田(カメラ・今西 淳)

 怒とうのバーディーラッシュを、カメラを担ぎ夢中で追いかけた。ZOZOチャンピオンシップで優勝したタイガー・ウッズの話ではない。地元・千葉を襲った数々の自然災害に心痛める女子プロゴルファー・成田美寿々(27)=オンワードHD=の話だ。

 10月、台風の爪痕が各所に残る千葉で行われた富士通レディース(東急セブンハンドレッドコース)に出場した成田は、特別な思いで試合に臨んだ。9月の台風15号では実家も停電するなど被災、災害に見舞われた地元に対して賞金全額の寄付を公言し、「千葉の皆さんの前で、いいプレー、いいバーディーを取りたい」と意気込んだ。また、応援の思いを込めて直筆の「千葉へ届け!」と書かれたバッジをつけラウンドした。

 第2ラウンド。朝から定点取材をしていた私は成田がスタートから3連続バーディーを奪ったと知り現場に急行した。4番ホールで追いつくと、そこはまさに”祭り”状態だった。フェアウェーからのアイアンショットはビタビタとピンにからみ、パットはカコンカコンとカップに吸い込まれる圧巻のバーディーラッシュ。これには同伴競技者のキャディー氏も「確変中だな」とあきれ顔。8連続バーディー以上のツアータイ記録のかかる8番ショートでは、およそ12メートルのフックラインをねじ込んで万歳。地元のギャラリーも沸きに沸き、ツアー新記録と、18ホール最少スコア記録(11アンダー)への期待も高まった。

 しかし記録がかかった9番ミドルホール。ここで成田が最近悩んでいるショットを左に曲げる悪癖が出てしまう。ティーショットを左ラフに入れる痛恨のミスショット、ラフからはボールとクラブフェースに芝がはさまるためにボールコントロールが極めて難しくなる。多くのプロが「ティーショットをフェアウェーに置くことが大事」とコメントするのはこれが理由だ。案の定第2打はグリーンをオーバー。チップインバーディーを狙ったアプローチも大きく外し、ボギーとなった。

 勢いが止まった後半は我慢の展開。寄らず入らずノーバーディー2ボギーで、本人もギャラリーもため息の連続。私は11年に諸見里しのぶがスタンレーレディスで同記録を達成した際も取材しているが、スタートから8連続バーディーの後、9番で記録が途絶えた以降はノーバーディーに終わっている。快進撃のあとの失速は今回とまったく同じで、プロゴルファーのメンタルはかくも繊細なものかと実感した。

 この大会の成田の最終成績は17位で、賞金103万2000円を寄付した。本人は「本当なら優勝して1440万円寄付できたらよかった」と泣けるコメントをしていたが、思い通りにいかない時も辛くて苦しい状況でも、もがきながらあきらめずにプレーする姿は見ている者の共感を呼び、勇気や生きる力を与えられただろう。11月15日からは千葉の房総半島で伊藤園レディース(グレートアイランド倶楽部)が行われる。もちろん、成田は地元の被災者ためにバッジをつけてプレーするつもりだ。そして私自身も千葉県民。奮闘するその姿をまた追いかけたい。

 ちなみに、この大会はアマチュアの古江彩佳(19)が優勝しプロ宣言した。前年覇者の成田はグリーンサイドまで来て古江を直接祝福。ここでも見事なまでのグッドルーザーだった。(記者コラム・今西 淳)

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