◆女子プロゴルフツアー NEC軽井沢72 最終日(13日、長野・軽井沢72G北C=6702ヤード、パー72)
首位から出た23歳の菅沼菜々(あいおいニッセイ同和損保)が、神谷そら(郵船ロジスティクス)とのプレーオフを2ホール目で制し、優勝した。これまでツアー121戦でトップ10入り26度とあと一歩の試合が続いていたが、プロ6年目で悲願の初優勝を果たした。
ウィニングパットを決めた菅沼は笑顔の後に、涙があふれた。プレーオフ2ホール目。第2打をピン左1・5メートルにつけバーディーとし、初優勝を決めた。昨年は33試合に出場し、トップ10入りは15度。メルセデス・ランキングは8位も優勝には何かが足りなかった。「ずっと悔しい思いをしてきた。勝てないと思う時もあったけど、優勝することができて本当にうれしい」。プレーオフ後には、同じ1999年度生まれの「はざま世代」の稲見萌寧(もね、Rakuten)や父・真一さんに出迎えられ、感極まった。
最終日は2位に3打差をつけてスタートも、前半を終えた段階での神谷との差は「1」に縮まった。リードして迎えた最終18番で神谷に並ばれ、初めてのプレーオフに突入。1ホール目は第1打を左に曲げ、林の中へ。第2打は5アイアンでフェアウェーに出すだけとなり、ボギーとした。神谷は第2打をピン右下8メートルにつけるも、3パットで同じくボギー。2ホール目では菅沼はフェアウェーをキープし、残り127ヤードの第2打をピッチングウェッジでピン左1・5メートルにつけてバーディーを奪って初優勝を決めた。
追い上げられながらも、明るい表情を貫いた。乃木坂46の大ファンで、一ノ瀬美空が「推しメン」という23歳。この日は「アイドルになったつもりだった」と独特の言葉で振り返った。焦りや自分へのストレスもあったが「きょうはアイドルなので、バーディーが来ない時も怒らないように、笑顔で楽しく回れた」と目を輝かせて答えた。優勝に手が届かない時でも応援し、支えてくれたファンに頑張っている姿を届けた。
20年に不安障害の一つである「広場恐怖症」を公表。この日の優勝スピーチでは「私が活躍することで同じ病気の方々に、元気や勇気を届けられると思う。これからも一生懸命戦いたい」と力強く宣言した。公共交通機関の利用が困難で、今も北海道や沖縄での試合には出場できない。だが、それ以外の試合は全て父が運転する車を利用している。コーチも務め、親子人三脚で歩み、初めて手にした栄冠に真一さんは「幸せ者」と目を細めた。
実は今大会直前の9日に、左足の小指をぶつけ、欠場も視野に入れていた。9日はコースを訪れたものの、5球練習したところで痛みがひどく、すぐにホテルに戻った。10日はプロアマ戦に出場予定も、痛みが治まらず欠場。大会初日の11日も腫れが引かず「靴を履いていたかった。途中で無理だったらやめよう」という思いで会場に向かった。歩く際に痛みはあったが、プレーには影響もなく、66で回って3位発進。「早く終わりたくて、あまり考えないのがいいのかも」と前向きに考えていた。状態は日に日に良くなり、優勝という最高の結果に結びついた。「出て良かった」と思わず笑みがこぼれた。
これまでのプロ生活の間に、同学年の選手や多くの後輩が優勝を挙げてきた。通算12勝の稲見には「萌寧ちゃんすごいなと思っていた。私もと思っていた」と明かした。埼玉栄高の後輩・岩井明愛(あきえ)、千怜(ちさと)姉妹は2人で5勝。「後輩が優勝したが」という質問を受けることも多かった。昨年のNEC軽井沢72は千怜が初優勝を挙げた試合でもある。「千怜ちゃんが勝った試合で、優勝できて縁を感じる」と喜びを感じていた。
長く苦しんだ分、手にした1勝に喜びもひとしおだ。優勝のご褒美には、はまっているという「ちいかわ」のグッズを購入したいという。今後は「2勝目をすぐ挙げられるように。ここで終わらず練習いっぱいして頑張りたい」。ゴルフ界のアイドル・菅沼がさらなるスター街道を歩む。